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COVID-19の内服治療薬について

こんにちは、上西内科副院長中畑です。
今回はCOVID-19の内服治療薬についてまとめてみました。

現在、内服で処方可能なものに、ラゲブリオとパキロビットがあります。
いずれも軽症の患者を対象にしていますが、リスクのある方を対象に医師の判断で投与しています。
リスクがある方でも軽症で入院などせずに経過する方も多いので、高齢かつリスクが多い方に限定して投与されていることが国内でも多いと思われます。(薬剤費が非常に高額のため)

まずはラゲブリオ(一般名 モルヌピラビル)についてです。

NEJMに掲載された初期の臨床試験のデータです。
COVID-19の重症化の危険因子(糖尿病や高血圧など)を少なくとも1つ持つ、軽症から中等症で入院していないワクチン未接種の成人患者を対象に、発症(この場合は症状や診察での所見)発現後5日以内に開始したモルヌピラビルによる治療の有効性と安全性を、第3相二重盲検無作為プラセボ対照試験で検証しています。

本試験の参加者は、モルヌピラビル800mgまたはプラセボを1日2回、5日間投与する群に無作為に割り付けられています。(飲み方はインフルエンザのタミフルに似ていますね)
有効性の主要評価項目は、29日目の入院または死亡の発生率で、有害事象の発生率も検討されています。

1,433人の参加者が無作為化され、716人がモルヌピラビル、717人がプラセボを投与されました。中間解析において、29日目までのあらゆる原因による入院または死亡のリスクは、モルヌピラビル投与群385例中28例7.3%に対して、プラセボ投与群は377例中53例で14.1%となっており有意差を持って低いという結果でした。

無作為化を受けた全参加者を対象とした解析では、29日目までに入院または死亡した参加者の割合は、モルヌピラビル群がプラセボ群よりも低くなりました。6.8%(709例中48例)対9.7%(699例中68例)

有害事象は、モルヌピラビル群710人中216人(30.4%)、プラセボ群701人中231人(33.0%)に報告されましたが軽微な副作用が多かったという結果でした。

結論として、モルヌピラビルの早期投与により、COVID-19ワクチンを接種していないリスクの高い成人における入院または死亡のリスクが減少したという結論になりました。

こちらはパキロビット(ニルマトレルビル+リトナビル)についての検討です。
リトナビルは薬物の濃度をあげるブースターと言われるもので抗HIV薬のブースターとしても以前から使用されています。その代わりに様々な薬剤の濃度を上げるため、治療薬の兼ね合いが慎重にならざる得ない薬です。

この論文は、第二、第三相のランダム化比較試験です。
症状ありの新型コロナウイルス感染症に罹患し、重症化リスクの高い、ワクチン未接種でなおかつ入院していない患者を対象としています。
ニルマトレルビル300mg+リトナビル100mgを時間ごとに5日間投与する群、プラセボを投与する群に1:1の割合で割り付けています。28日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡、ウイルス量、安全性を評価しています。
2,246例が組み込まれ、そのうち1,120例にニルマトレルビル+リトナビルを投与、1,126 例にプラセボを投与してします。
中間解析での28日目までのCOVID-19関連入院または死亡の発生率は,ニルマトレルビル群のほうがプラセボ群よりも相対リスク減少率89.1%となっていました。
ニルマトレルビル群では 入院は0.77%(389例中3例)で死亡0例、プラセボ群では7.01%(385例中27例)で死亡7例でした。
最終解析においても有効性は維持されており、相対リスク減少率88.9%でした。死亡した13 例はすべてプラセボ群であった。投与期間中の有害事象の発現率は 2 群で同程度でした。

試験デザインが違うので正確な評価は難しい部分はありますが、やはりパキロビットの方が有効性は高いと考えます。
しかし前述したとおり、薬剤相互作用の問題で使用できない場合には、ラゲブリオになるかと考えます。

最後にオミクロン株流行下でのパキロビットに関するエビデンスです。

イスラエルからの報告ですが、クラリットヘルスサービスという保険への加入者で、40歳以上であり、COVID-19感染でニルマトレルビル療法に適格と評価された全員のデータを入手しています。
ニルマトレルビルの投与の有無と、COVID-19 による入院および死亡との関連を推定しています。
109,254 例が適格基準を満たし、うち3,902例(4%)が研究期間中にニルマトレルビルの投与を受けています。
65歳以上の患者については、COVID-19による入院率は、投与を受けた患者では10万人あたり14.7例であったのに対し、投与を受けなかった患者では10万人あたり58.9例でした。COVID-19による死亡の補正ハザード比は0.21でした。
一方、40~64歳の患者については、COVID-19による入院率は,投与を受けた患者では10万人あたり15.2例でしたが、投与を受けなかった患者では10万人あたり15.8例でした。COVID-19による死亡の補正ハザード比は1.32でした。
全体としてはやはり高額なことなども加味されますが、投与が全体の4%と非常に低いのが特徴でもあり、一般臨床をよく反映しているのではと考えます。
高齢者はワクチン接種があっても高リスク群では対処を検討するべきで、逆に若年はワクチン接種である程度重症化は防げる、という事になると考えました。

現状の投与対象になるのは①高齢で ②重症化リスクを持っており ③ワクチン未接種の3つを持つ方が一番優先で、それ以外では2つの方で全身状態などを考慮して、ということになると思われます。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史

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