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非結核性抗酸菌症の新しい治療薬について

こんにちは、上西内科副院長の中畑征史です。
今回は我々呼吸器内科の治療の悩みの種である、非結核性抗酸菌症の新しい治療薬について解説します。

まず非結核性抗酸菌症についての説明からですが、非結核性という言葉のとおり結核菌以外の抗酸菌という系統の菌の感染症というのが大雑把な意味になります。
非結核性抗酸菌は土や水などの環境中にいる菌で、結核菌とは異なり人から人には感染しません。
菌の種類は150種類以上ありますが、非結核性抗酸菌症の80%がMAC (Mycobacterium-avium complex)と呼ばれる菌です。
結核と違って人から人へ感染しないので隔離などの必要はありませんが、そのかわり薬物治療に抵抗性という側面があります。

進行も結核と比較してゆっくりではありますが、それでも肺の破壊の進行が長い経過(場合により20〜30年)で進むことがあり、現在の症状と将来と、薬剤の副作用を総合的に判断して治療が必要になります。
全く治療なしでも問題ない方もいるのに対して、早いペースで悪化する場合や喀血や感染を繰り返す方もおり、進行の早い方に対しての治療に関しては難渋することも多いのが現状です。
今までは結核に対する薬剤を2~3種類内服することが治療になりますが、治療効果の目安となる喀痰からの菌の陰性化が達成できないこともしばしば経験します。

今回はそういった難治性の肺MAC症に対する吸入での治療薬である、アリケイスの論文について解説します。

https://www.atsjournals.org/doi/pdf/10.1164/rccm.201807-1318OC

アリケイスは、元々アミカシンと呼ばれる以前から使用されている抗生物質の一種で、抗酸菌に効果があることは以前から知られていました。
しかし、アミカシンはアミノグリコシド系という系統の薬剤ですが、長期連用で腎機能障害や聴覚障害が出現するため、使いにくい薬の代表でもあります。
アリケイスは、吸入にて直接肺に取り込むことで副作用の軽減を目指した薬剤になります。工夫としてリポソーム化という処理をすることで血液への移行を減らし、肺内の濃度を高めるようになっています。

半年以上ガイドラインに基づいた治療(本論文ではGBTと呼称)を行なったにも関わらず、喀痰培養でMAC陽性の患者を登録しています。
アリケイス+GBTとGBTのみの群に2:1に割り付けています。(n 224:112人)
平均年齢は64.7歳で、女性が約70%でした。
基礎疾患は気管支拡張症とCOPDが多く含まれました。主要評価項目は培養陰性率で、3ヶ月連続で培養陰性であった場合としています。

培養陰性化はアリケイス+GBTで29%、GBT単独群で8.9%でした。(オッズ比も4.22)
気になる副作用に関しては、吸入に伴う発声障害などはやはり吸入ありの群で多かったですが、重篤な呼吸器副作用はGBT群と大きな差はありませんでした。
聴覚障害がアリケイスの成分であるアミカシンにはあり得ることは前述しましたが、聴覚に関してめまいや軽度の聴覚障害はやはりGBT群より多かったですが、重篤なものはありませんでした。
聴覚関連の有害事象の半数は治療継続しても改善したとのことでした。
腎機能障害は特になかったようです。

以前からMAC症は徐々に増えており、現在は大病院での通院の方も多いですが、安定して治療継続中の人はクリニックでの経過観察や治療継続も視野に入ってくると思われます。
ただし、MAC症の治療薬である結核薬は副作用が多く、使いなれた呼吸器内科医が管理するのが望ましいと思われます。
当院でも病院と連携しつつ、治療及び経過観察を適切に行なっていきたいと考えております。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史
https://uenishi-naika.com/

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