ツアーガイドの思い出 第九話

約5年ぶりの再会は、ワールドバザールを出たすぐの、ウォルトディズニーとミッキーの像が立っている付近で果たされた。

「こんにちはぁー!ご無沙汰しておりますぅーーー!!!」

昨日の社長からの『敬語やめない?』をすっかり失念、思いっきりかしこまってしまった。

「おお!KAZさん!いやぁー、来ちゃったよぉー!!笑」

これほどまでに「来ちゃった」、が似合うシーンはそうそうないだろう。
飛行機とバスで片道約3時間。遠路はるばる、この舞浜までようこそお越しくださいました。奥様ともご挨拶をする。非常に穏やかで落ち着いた雰囲気の方だ。

「この二日間、どうぞよろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそです!よろしくお願いします!」

お子さんともご挨拶。「こんにちはー!」と娘と声をかける。

「こんにちは、、、。」

少し戸惑っていた。当然だ。見知らぬ地へ降り立ち、なんだか浮き足立つ人がいっぱいのテーマパークへ初めて訪れた上、見知らぬ親子から挨拶をされるのだ。
お会いして、到着してそうそうで心許なかったが、ぼくは何とか和んでもらおうと、あるものをお子さんへ渡した。

「これ、よかったらどうぞ。」
「?、、、わぁーー!!!」

一気にお子さんの目が輝いた。よかった、気に入ってくれそうだ。
ぼくが渡したものは、ベルをイメージしたカチューシャと美女と野獣のポップコーンバケット、それにバースデーシールを貼ったプロテクターつき缶バッチだった。

「えぇー!こんなに色々、、、すみません!」

いえいえとんでもないです、とぼくは奥様に首を横に振った。

カチューシャに関しては一週間前、社長に事前確認の上準備をしておいた。娘さんがベルのカチューシャを欲しがっていると伺ったので、前日ボンボヤージュにて購入していた。
ポップコーンバケットにおいてはこの日、娘所望のアトラクションを全て乗り終えた後、ビッグポップで購入していた。ベルのカチューシャと揃えて使ってもらえれば、というぼくの一存だった。

どうしようか、と思い悩んでいたのはバースデーシールだった。
社長から「娘の誕生日に家族でパーティーをする際、ディズニーへ行くとサプライズ告知をする」、という話を忘れるわけがなかった。あれから一ヶ月弱が経過していたが、当然お祝いをしてしかるべしだと思った。

シールは本来であれば現地で、キャストさんから直接もらうべきだと思ったし、それがご本人の思い出作りとしては正しい方法だと考えていた。
そもそも、本人以外からシールを頼む、という行為があまりよろしくないのかもしれない。
しかし、この炎天下の中でわざわざ描いていただくのも気が引けたし、うまいタイミングでキャストさんに出会えるか、というのも気になるところだった。まぁこれは、ぼくの一方的な思いなのだけれども。

一番初めに手にするシールはどうすべきなのか。
悩みに悩んで、ぼくはこの前日、ぼくたち親子がホテルにチェックインをした際、フロント受付キャストさんへお願いをすることにした。

わがままなのですが、と前置きをして事情を説明すると、キャストさんは「もちろんです!」とにこやかにご対応してくださった。
しかも、たくさんのカラーペンを使って可愛らしくシールを仕上げてくださった。いくつかの隠れミッキー的なデザインも施してくださった。感謝しかない。
描いていただいたシールを、ぼくはあらかじめ購入していた缶バッチに貼り、プロテクターを取り付け、リュックに忍ばせておいた。
缶バッチはクリップとピンの2WAYタイプにしたので、お洋服に穴をあけることに躊躇いがあっても大丈夫なようにした。プロテクターをつければ雨の日も安心だ。

これは旧Twitterから仕入れた有益な情報で、娘の誕生日に毎年同じことをしている。
シールは衣服や帽子の上から貼ると、どうしても粘着力が弱まったり、シワができてしまう。それも思い出の一端となるけど、せっかくだからいい状態で保存しておきたい、という方のための素晴らしいアイディアだった。

「本来ならキャストさんにもらうのを最初にしていただきたかったのですが、ぼくの勝手な判断ですみませんが差し上げます。あえて日付のみ、西暦は入れないように描いていただいたので、今後ご家族で来る時はいつでもお使いください。2日間の中でタイミングを見つけて現地キャストさんからもシールをもらいましょう。お祝いしてくださいますので。」

押し付けがましかったかもしれないと思ったが、お子さんが喜んでくださったのでホッとした。

「なになにKAZさん!ひょっとしてオ○エン○ル○ンドの人なの!?!?」

と、社長から笑いながら肩を小突かれた。「ありがとね!」と耳元で囁いてくださった。よかった。めちゃめちゃホッとした。

「では早速ですが、お昼の時間までまだ余裕がありますので、まず初めにミニーさんへ会いに行きましょう!」

ご家族の皆さんが予定通りに到着してくださったおかげで余裕を持ってグリーティングに向かうことができた。目指すは「ミニーのスタイルスタジオ」である。ぼくは先頭を切って進む。

移動しながらふと後ろを見ると、娘とお子さんと奥様はなんかもうすっかり打ち解けている様子であった。早すぎて素晴らしい。
ぼくは社長と、ここ数年間コロナ禍でのご状況を詳しく伺うなどお話をしながら、目的地へ向けて歩を進めた。さらなるサプライズを用意して。



ーつづくー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?