ツアーガイドの思い出 第一話

それは今春の出来事だった。
最初のご挨拶から長い間お世話になっている、地方のお取引先企業代表の方のweb商談中の発言から始まった。



「KAZさん!そういえば今年の夏休み、家族でディズニー行くんですよ!」



通常であれば、「へぇーそうなんですかご家族で!?いいですね!やはり新エリア狙いですか?、、、ですよね、そうですよね!実にいつぶりなのですか?はぁーなるほどですねぇ!それは楽しみですね!関東の暑さは年々厳しくなっていますから、お体に気をつけて楽しんできてださい!」など、軽く雑談をして終わる。
終わるはずだった。



「今、ディズニーってどんな感じなんですか!?」



きた。きたきた。こういうご質問、きた。
いや、分かる。非常に分かる。理解できる。
特に遠方の、逐一仔細な現地の情報を中々掴めない方からすれば、この疑問が思い浮かぶのは至極当然のことである。代表の方はもう10年以上パークにはいらしていない。
漠然と、しかし芯を突くこのご質問に対し、高頻度ではないにしろ、パークの状況をある程度把握しているはずのぼくは前のめりに答える以外に術がなかった。



以前より混雑していることに間違いはない。パークチケットを始め、全体的に価格は上がっている。ショーやパレードを鑑賞するにはある程度の時間を作って待たなければならない。エントリーという抽選制もある。お食事については事前予約に加え、モバイルオーダー制度が導入された。今ではアプリで手軽に買い物もできる。
アトラクションへの搭乗や一部商品販売店舗への入店においては各種パスをアプリ内で取得しなければならず種別によってルールが異なるんですよああそうだパスは有料のものと無償のものがあって時間帯を選べるものとそうでないものがうんぬんかんぬん、、、、



それはまるでひな壇で背もたれに背をつけないリアクション芸に優れている方々の如く。「ディズニー」という単語に思わず「まってましたぁーーーーー!!!!!」と脊髄反射をしてしまういちファンの悲しき性であった。



「いやぁーKAZさんめっちゃ詳しいですね!よければKAZさんも一緒に来てくださいよ!案内して欲しいです!!」



、、、え?



えぇ、、、、?



一緒に?行くの?ディズニー?リアリィ???



「いやぁーワクワクしますねぇ!一緒に楽しみましょう!!!!」



どうやら舞浜行きは確定したらしい。
おめでとうございます。どういたしまして。



「アレですよね、ファストパスを取れば乗り物に早く乗れるんですよね!?」



そうかそうか。これは険しい道のりになりそうだ。
ぼくは笑顔のまま「で、では順を追ってご説明いたしますね〜!」と声を絞り出すのに精一杯であった。



ーつづくー

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