相羽秋夫の「上町らくご植物園」第31折(閉園)

植物が登場する落語を取り上げ、演芸評論家の相羽さんならではの面白い視点で読み解きます。

上方落語「物言う花」

ヘンな名前―― 梔子(くちなし)

 ある男、植木屋をからかってやろうと、「物を言う花はあるか」とやって来た。植木屋が「うちの花は、みんな物言う花や。嘘やと思もたら声を掛けてみい」と言うので、男は、花に向かって名前を尋ねる。「おまえは何の花や」「桜です」と返事が返ってくる。男は興に乗って「おまえは?」「梅」「おまえは?」「菊」と、どの花も返事をする。中に一つだけ返事をしない花がある。「おやっさん、こいつは物言わへん」、植木屋「あっ、そいつは梔子(くちなし:口無し)や」。

 このヘンテコリンな名前は、果実が熟しても口を開かないところから名付けられた。梔子、巵子、山梔子などの字を当てる。洋名をガーデニアという。
 花名とはうらはらに、夏に可憐な白の大輪花を咲かす。西日本・中国・インドシナなどの温暖地で自生する。『古今和歌集』にもその名が見えるので、古くから愛されていたのだろう。八重咲・細葉・丸葉・斑入の種類がある。
 果実は熟すると紅黄色になり、そこから採った黄色の色素は染料になる。また乾燥させた果実は、漢方薬「山梔子(さんしし)」として知られている。さらに、果実を煎じた汁で炊く黄色の飯は「梔子飯(くちなしめし)」もしくは「黄飯(おうはん)」と呼ばれ、熱を下げるために食べた。ちなみに、小豆(あずき)を炊いた米飯が「赤飯」。南天の葉で黒く染めた「黒飯(こくはん)」もある。
 「帯を解くくちなしの闇恐れつつ」「山梔子の実のみ華やぐ坊の垣」といった俳句が詠まれている。梔子の花を物言わぬ花として詠まれた和歌に「鶯(うぐいす)の声に呼ばれてうち来れば 物言わぬ花も人招きけり」がある。梔子の花は、歌謡曲の世界でも有名になった。
 花があれば草もある。「くちなし草」は、果実の形が似ているためのネーミングだ。
――「梔子」と掛けてメガネと解く、その心は口が無くても鼻(花)があればよい。 (閉 園)

※「上町らくご植物園」は今回で閉園です。次回より新シリーズが登場します。

くちなし


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