「上町台地」名所図会 第23回

※名所図会(ずえ)とは名所の来歴などを絵も交え紹介したもの。

写真/中原文雄
 文/松本正行

阿倍王子神社/安倍晴明神社(大阪市阿倍野区)

 安倍晴明の影響もあるのでしょう、安倍氏といえば陰陽師の印象が強いようです。しかし、陰陽道の家として知られるようになったのは平安中期以降。飛鳥期は蘇我氏などにつぐ有力豪族で、平安前期までしばしば高位高官を輩出しました。その安倍氏が治めた場所が、いまの阿倍野区あたりです。安倍氏はもともと「阿倍」と表記しており、区の名前もそれに由来しているとされます。
 阿倍王子神社(写真上)は、安倍氏の氏寺があった場所に建ちます。安倍氏の衰退に伴い氏寺は四天王寺に併合され、氏神のための社のみ残されたのですが、熊野詣が隆盛となり王子社(休憩と遙拝のためのお宮)として整備されました。鳥居の前にある道が昔の熊野街道で、写真の左下にあるように小さな碑も建っています。
 一方、安倍晴明神社(写真下)ですが、この地で安倍晴明が生まれた、といわれます(父親が女狐と契って産んだ子といった話も)。もっとも、晴明出生の伝承は各地にあり定かではありません。それでも不思議な力をもったとされる晴明にあやかって、江戸期には参拝の人が絶えなかったそうです。
 そして、近年の晴明人気。明治以降、衰微し阿倍王子神社の末社になった安倍晴明神社ですが、いま再び訪れる人が増えました。どんな形であれ、大阪の街や歴史に関心を持つ人が増えるのはうれしいものです。

中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。

松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。

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