らくごハローワーク 第17職

落語にはさまざまな職業が登場します。演芸評論家の相羽さんならではの切り口で落語国の仕事をみてみると……。

『湯屋番』の微妙に動く二つの目

湯屋とは、今日で言う銭湯・風呂屋・公衆浴場のことで、料金を取って入浴させる商売である。
 飛鳥期(6世紀)に、奈良の寺院で人民救済のために大浴場を設けた。これを「功徳(くどく)風呂」と呼び、湯屋の始まりとされる。江戸期には、男女混浴の頃もあったが、風紀を乱すとの理由で分浴になった。
     ◇       ◇
 居候ぐらしの男に湯屋での働き口の声が掛かる。番台(入口に高く設けた見張台)でないと嫌だと言うので、主人は「私の昼食の時だけだよ」と、番台をまかせる。男は喜んで座ると、女の入浴客の品定めを始める。“気の効いた年増女が男に夢中になる。女の家に行き2人で酒を呑んでいると、近所に落雷がある。女が恐がり男に抱きついてくる……”と妄想をふくらませた所で、男性客の「俺の下駄がねえ!」の声で我に返る。
 男は「それなら、こちらの下駄を履いて帰って下さい。順々に他のを履いてもらい、最後の人は裸足(はだし)で帰ってもらいます」。
     ◇       ◇
 湯屋で働く人で番台を担当するのは、経営者やその家族が多かった。湯汲み・湯番・番頭などと呼ばれた。風呂を焚いたり湯客の体を洗ったりする男は「三助(さんすけ)」と称した。湯屋にいた遊女を「湯女(ゆな)」と言ったが、現代風に表現すれば、ソープランドの女性とでも言おうか。
 「浴衣(ゆかた)」は、湯上がりに着たくつろぎの衣類だが、室町期より盆踊りに使用してから、すっかり夏の和服の定番になった。
 「湯屋温泉」という奇妙な名前の温泉がある。平安中期に発見された岐阜県の名湯、下呂温泉に隣接する。神経痛や胃腸痛に効用があるので、湯治場として有名だ。
 古川柳に曰く。「開帳を裏から湯番拝んでる」。説明するまでもないであろう。落語の主人公が最も欲した光景である。罰当たりめが。


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