「上町台地」名所図会 第17回

※名所図会(ずえ)とは名所の来歴などを絵も交え紹介したもの。

写真/中原文雄
 文/松本正行

南大阪教会(大阪市阿倍野区)

  大阪メトロの昭和町駅から北西に少し歩くと、大きな塔を持つ建物が見えてきます。1926年に設立された日本基督教団「南大阪教会」(写真上)で、1928年に完成したその塔屋と礼拝堂は、大阪を代表する建築家・村野藤吾が手がけました。村野が個人事務所を設立する前の年に設計した、事実上の村野作品の第一号です。
 「〇+☐」をあしらった塔側面の窓枠や礼拝堂の特徴的な美しい丸みなど、この建物には村野らしさを随所に見ることができます。それだけに強い愛着があったのでしょう。「私の長男」と村野が呼んでいた、という話も伝わります。実は、現在の礼拝堂は81年に改築されたのですが、その際も村野が設計しました。塔は創建時のままなので、最初期と最晩年の村野作品が、同時にこの建物では味わうことができるわけです(村野は84年没)。
 また、この教会が運営し隣接する幼稚園の敷地には、ある有名な童謡の歌碑があります。歌の名前は『サッちゃん』(写真下)。作者の阪田寛夫(『土の器』で芥川賞も受賞)は園の2期生で、1歳上で同じ園に通う「さちこ」という女の子をモデルに書いた、と言われています。いまなお愛される歌の舞台が上町台地だったと知りなんだかうれしくなります。
 1981年の新礼拝堂の完成に際して、教会の信者である坂田もお祝いに駆けつけました。村野と一緒に撮った写真も残っています。

中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。

松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。

※「うえまち」読者が推薦する上町台地の名所のうち、100か所を地図にした『上町台地名所百景』。大阪歴史博物館1Fにあるミュージアムショップで販売中です(税込400円)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?