「上町台地」名所図会 第7回

※名所図会(ずえ)とは名所の来歴などを絵も交え紹介したもの。

写真/中原文雄
 文/松本正行

榎木大明神2

榎木大明神・楠木大神(大阪市中央区)

 古来、日本人は「森羅万象に神が宿る」と考えてきました。とくに樹木に対してその思いが強いようで、各地の神社にはご神木と呼ばれる木が残り、お寺などにある大きな木も大切にされています(木霊信仰)。その一方で、大阪市内では「なぜ、こんなところに」という木にもよく出会います。古い調査ですが、1984年には23か所も道路上に巨木があったそうです(大阪市建設局)。市内中心部の戦災を免れた地域に、そういう木がいまも残ります。
 熊野街道(お祓い筋)と江戸時代のメインストリートだった安堂寺通が交差する場所に鎮座する「榎木大明神」(写真上)もそのひとつで、往時は旅人の目印でもありました。樹齢は650年超。楠木正成お手植えとの話も伝わります。ちなみに、延命施術をした樹医によって、エノキではなくエンジュの木であることがわかっています。
 谷町7丁目のクスノキ通りにある「楠木大神」(写真下)はもともとお寺の境内にあり、道路拡張の際、伐採される予定だったのがそのまま残されたそうです。先の榎木大明神もそうですが、こちらも巳(みい)さんと呼ばれる蛇がご神体。大阪市内の路傍・路中にある木の多くが蛇にまつわる伝承を伴っています。
 他にも上町台地には、玉造稲荷神社そばの「白光大神」、楠木大神から少し南にある「末広大明神」などの巨木が残ります。何百年も生き抜いた“彼ら”は、果たしてどんな景色を見てきたのか――。想像してみるのも一興でしょう。

楠木通り

中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。

松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。

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