らくごハローワーク 第12職

落語にはさまざまな職業が登場します。演芸評論家の相羽さんならではの切り口で落語国の仕事をみてみると……。

『道具屋』は客の手元で値を定め

 道具屋と言うと、使い古した道具、つまり古道具を扱う店だ。骨董(こっとう)屋とも言う。中には、稀少価値や美術的な価値のあるものも含まれていて、客にとっては思わぬ掘り出し物を手に入れるよい機会と、愛好者は現代でも後を絶たない。
 この道具屋が登場する落語は多いが、中でも有名なのは、これから紹介する別名『道具の開業』と呼ばれる滑稽噺の『道具屋』である。艶笑噺で同名の『道具屋』があるし、上方で『道具屋芝居』、江戸で『道具屋曽我(そが)』と称する芝居噺もあって、ややこしい。
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 おじの世話で路上に店を出す道具屋を始めた男がいた。男は生来ずぼらな性格で、来る客来る客を応対のまずさで帰してしまう。
 少しあせり出したところへ、やって来た客は、古びた笛を手に取り、矯(た)めつ眇(すがめ)つしているうちに、笛の筒に指が入って取れなくなってしまう。男、ここぞとばかり「取れなければ、買ってくれないと困る」と言って、相手の弱みにつけ込み、法外な値段を吹っかける。客は怒って「ひとの足元を見るな!」と抗議すると、男「いや、手元を見ている」。
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 大阪市中央区千日前の「なんばグランド花月」前から南に伸びる細い道路の両側には、道具屋がびっしり建ち並ぶ。この道を「道具屋筋」と呼ぶが、ここでは新品の道具を売る店ばかりである。
 川柳に曰く「十六で娘は道具揃いなり」の句は、16歳になった娘は、嫁入り道具ともう一つの道具も揃ったと喜んでいる、との意だ。「今はもう小便だけの道具なり」は、男性の悲哀を描く。この2句の道具は容易に想像がつこう。
 江戸初期に大流行した「道具屋節」という古浄瑠璃の一派がある。大坂在住の道具屋吉左衛門が創流した剛健な語り口の節である。
 「骨董飯(はん)」というものもあるが、こちらは五目飯・加薬(かやく)飯・味付飯のことである。
 と、この稿を書いて疲れたので伊予の国・松山の「道具温泉」に行こうと思う。それも言うなら“道後”温泉じゃ!  

     


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