「上町台地」名所図会 第16回

※名所図会(ずえ)とは名所の来歴などを絵も交え紹介したもの。

写真/中原文雄
 文/松本正行

近畿日本鉄道本社ビル(大阪市天王寺区)


 建築家「村野藤吾」の名は知らなくても、梅田の阪急百貨店本店前に建つ、キノコのようなステンレス製の建物を知らない人は少ないでしょう。それは「梅田吸気塔」といって村野の作品で最も知られたものの一つ。1963年に竣工しました。
 村野藤吾は1891年生まれで佐賀県出身。早稲田を出たのち大阪の渡邊節の事務所に入りました。以後、大阪を中心に数々の作品を残しています。重要文化財に指定された備後町の綿業会館は渡邊との共同作品です。現存はしていませんが、ミナミのシンボルだった新歌舞伎座やそごう大阪店は独立した村野の手になるものでした
 この村野と上町台地には強い結びつきがあります。まず、村野は事務所を阿倍野に構えました。さらに、近鉄グループの建物を数多く設計しています。その代表作が近畿日本鉄道本社ビル(1969年竣工、写真上)で、装飾性を排したシンプルなフォルムが上品な雰囲気を醸し出しています。突き出た車寄せも印象的です。
 近鉄百貨店上本町店とシェラトン都ホテル大阪(写真下)も村野作品です。とくにこの2つでは直線と曲線の使い方、建物のもつ優美さなどを間近に見ることができます。村野藤吾――もっと知られていい大阪人の一人と言って間違いありません。

中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。

松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。

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