【読感】「その日暮らし」の人類学

小川さやか著です。シラスを見てゲンロン12を読んで、面白い人だと思い、著書を手に取りました。

小川さんは文化人類学者ですが、フィールドワークが独特でアフリカの都市の零細行商人を調べながら自身も行商人をしたり、迷子になった村に棲みついたり、ワイルドな女性です。

彼女はアフリカ零細行商人の生き方を元に、独特の人間関係やその日暮らしの人生観を描いています。インフォーマルな世界で、日本の戦後の闇市みたいな世界に近いのでしょうか?フォーマルな契約ベースのビジネスや金銭の貸借りとは違う、騙しあい助け合いありの人間くさい自由主義の人々、その日暮らしだけど自信にあふれたたくましい生き方、面白いですね。

彼らのインフォーマルな世界が、世界で主流のキチンとした世界、例えばグローバル企業の金持ちと中流から貧困層に落ちていく人々のニ極化現象に揺れている資本主義世界の救世主になるかはあやしいですが、

彼らの借金などで借りを作って知り合いのネットワークを作るあり方は、もしかしたら柄谷行人の『世界史の構造』で示す、交換様式Dの贈与の高次での復活の世界に繋がるものかもしれない。

でも、彼らは、インフォーマルな世界で、隙間産業?隙間商売?を生きているので、世界の主流にはなり得ないのではないでしょうか。しかし、考え方は面白い。

アフリカの零細行商人は香港を経由して中国でも活躍しているとのことですが、この本の書かれた比較的自由な雰囲気のある8年前と、今の香港は違っているかもしれません。

自由人の彼らが、まだその日暮らしを逞しく生きていることを信じたいですね。

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