ゴーン氏の国外逃亡_検察の刑事司法制度と報道の問題として考える。シリーズ(1)

【何がゴーン氏を亡命に駆り立てたのか?】

日産の元会長、カルロスゴーン氏が東京地検特捜部に逮捕されたのち、釈放中でありながら密かに日本国内を脱出し、2019年12月30日にレバノンに姿を現した。

この年末の国外逃亡・脱出劇は「スパイ映画のようだ」と日本は最寄り、世界中を驚かせた。世界各メディアは脱出方法などを盛んに検証したが、詳しい内容はゴーン氏が明らかにしておらず、未だ解明されていない。

脱出の手法として最もよく知られているものでは「楽器ケースの中に隠れていた」①で、パーティー会場からケースごと運び出されたまま、ノーチェックで空港の荷物検査を通過し、プライベートジェットでトルコを経由してレバノン入りした、というものだ。逃亡を手助けしたパイロットや、航空会社の関係者五人がトルコ検察局に逮捕された。② 参照 

これについては、ゴーン氏はBBCの単独インタビュー対して、これ以上、関係者に害が及ぶのを恐れてか、答えをはぐらかしている。キャロル夫人も同様に頑なに口を閉ざしている。

もっとも、氏が心から安心したのは飛行機が日本から離陸した時ではなく、レバノンに到着した時だと緊迫した脱出劇の心情を率直にBBCにに語っている。

ゴーン氏と親しい元検事で弁護士の郷原信郎氏の解説によれば、ゴーン氏の罪状は微罪であり、逮捕するような質の犯罪ではないことを記者会見などで繰り返し述べている。(以下郷原弁護士と表記します)

改めて整理すると、ゴーン氏が逮捕されたのは「有価証券報告書での報酬の過少記載」で罪状は「金融商品取引法違反」だ。

さらに、「特別背任」という罪名も加えられた。これは日産のニュースリリースによると、「当社の資金を私的に支出するなどの複数の重大な不正行為があった」ということで、個人的な投資の損失を日産に付け替えした、などが既報されており、「使い込み」されたという事だ。

これにグレッグ・ケリー氏も加担していたと大企業のプレスリリーにしてはかなり感情的な文面で告知されている。日産ニュースリリース 

この二つの容疑について、前出の郷原弁護士は「金融商品取引法違反」での「有価証券報告書での報酬の過少記載」については「本件においてゴーン氏はもらおうとすればもらえた20億円の受け取りを10億円に抑え、その分、将来的にコンサルタント契約の対価を受け取ろうとしていた」と『Japn in_deph』で述べている。

郷原弁護士は「ゴーン氏逮捕正当性なし」ときっぱりと「検察の暴走」を示唆した。

また同ニュースサイトで「金融商品取引法197条の規定」にも触れ、「虚偽の記載のある報告書を提出」するべき責任者が日産の元代表取締役の西川廣人氏だとして、事件の責任者が司法取引する事出来ない事と、ゴーン氏のみが立件されるのはおかしいとの見解を示した。

個人的にはゴーン氏と親交の深い郷原弁護士の意見を全て肯定する事は出来ないとしても、郷原弁護士は法的根拠に基づいてこの「ゴーン氏の立件への疑義」について意見を述べている。驚くことに、司法関係者、弁護士ですらSNS等で報酬の過少申告を鵜呑みしてゴーン氏の脱税行為だと指摘してるのが散見される。

このゴーン氏が逮捕された時に報道された容疑について、探ってみた。

【検察と報道機関の蜜月が生んだスクープ】

このゴーン氏逮捕事件報道で特筆されるのは新聞社大手である朝日系列の貴社の動き。ゴーン氏がプライベートジェット機内で東京地検に逮捕されるその瞬間をスクープした。

2019年11月19日に「羽田に降り立ったゴーン容疑者を… 捜査は一気に動いた」では朝日新聞の記者が「一部始終」をみたと特報した。

事件記者が検察とこれほど足並みを揃えて現場入りできるのは運の良い偶然だった、と思う人はいないだろう。

テレビ朝日のニュースステーションの動画でこの第一報を見た時、「捜査の守秘義務とは?」と瞬間的に筆者は思ったが、この感動的な朝日のスクープは検察と日々検察への取材活動に勤しむ報道機関の確固たる信頼関係の賜物だろう、とその苦労を偲んだ。社史に残るスクープだ。

検察と報道機関(以下、記者クラブと表記します)による「ゴーン氏逮捕」の容疑事実はこうして広まってった。ゴーン氏の逮捕に関しては、容疑者と検察と中立的な立場で報じられる事はなかった。

【この事件の日産側の管理責任者は誰なのか?】

また続報として、朝日新聞は「法人としての日産も立件へ 長期で巨額の虚偽記載を重視」「ゴーン会長はケリー代表取締役と共謀し、2010~14年度の5年度分の有価証券報告書に、実際はゴーン会長の報酬が計約99億9800万円だったにもかかわらず、計約49億8700万円と過少に記載したとして逮捕された。」と報道しているが、ゴーン氏は今もらえる報酬を将来的に受け取れるようにしていたのだ。実際にゴーン氏に支払われていた報酬が99億9800万円ではなかった事は郷原弁護士が再三にわたって詳しく説明している。

またその有価証券報告書の提出責任者は西川廣人氏だということも上記したとおり。事件の重要な責任者が司法取引で無理筋に刑事責任から逃れたとの見方もできる。しかし、そのような社会的視点でこの「ゴーン氏逮捕」を分析する有識者は少ないのだ。

今、ゴーン氏が国外へ逃亡することに至った背景を振り返ることをしなければ、全世界に恥をかいた「人質司法」と呼ばれる日本の刑事司法制度や「三権の長」の広報部のような人権や中立性を無視した記者クラブの報道姿勢を改める事は出来ない。

この朝日のスクープを見ても、検察と記者クラブの蜜月がどれほどの厚さでどれほどの権威が重層になって世論を動かし、君臨し続けているか個人では測り知る事は出来ない。無論、検察と記者クラブの共闘によって巨悪が暴かれたこともあるだろう。

しかし市民にとって時にそれは事件の背景・真実を発見する壁にもなり得る。日本の事件報道とは、このような捜査機関と記者クラブの連携によって生み出されているものがあることも、このシリーズで都度都度、訴えていきたい。

  (了)


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