「アイプチで白目をむく」という現象について
高校時代のクラスメイトに、やたらと白目をむく女がいた。背の低い女子で、目が小さく、それをコンプレックスにしており、毎朝がんばって二重にするべくアイプチをするんだが、その影響で、喋っていると唐突に白目をむいてしまう。本人も自覚していた。
あの現象は何だったんだろう。アイプチで白目になるというのは、当時有名な話だった。いまいち仕組みが分からないが、アイプチの糊のせいで、まばたきのとき完全にまぶたが閉じなくなる? 中途半端に開いたままになる? それで、すこしだけ白目が見えてしまう?
疑問形だらけですまない。
とにかく言えるのは、アイプチで白目をむくのは致命的だということである。カワイイを獲得したくてアイプチしているのに、白目というのはカワイイの正反対だろう。
目は一重だが喋りながら白目をむかない女と、ぱっちり二重だが喋りながら白目をむく女では、どちらが魅力的なのか。そんな問いも生まれる。白目をむくリスクと、二重になるリターンは、どちらが大きいのか。
なんだか、能力者バトルみたいでもある。冨樫義博あたりに描いてほしい。主人公の女子が師匠に出会い、特殊能力「アイプチ」を獲得する。これを使うと二重になれるが、まばたきのとき白目をむいてしまうリスクもある。ぱっちり二重にするほど、白目の確率もあがる。戦略性がある。少女マンガ的な主人公が、少年マンガ的な物語をやると、こうなるんじゃないか。
日常生活では、いかに白目をむかずに二重になるかが試される。たとえば自撮りの瞬間だけ能力を発動して、すぐに戻す。それなら白目に気づかれることもない。デートの時は、ここぞという場面でだけ二重になる。見つめあう瞬間だけ能力発動だ。あまり長々と二重になってはいけない。彼の前で白目をむくのは致命的だからだ。
しかしある時、なにも知らない彼が提案してくる。一泊二日の温泉デート。もう絶対にごまかせない。それでも好きな人への想いは止められない。初日の夜、限界をこえたアイプチの発動。デート開始より物陰で見ていた師匠がさけぶ。
「もうやめろ、それ以上アイプチすると、死ぬまで白目ですごすことになるぞ!」
「それでもいい……今この瞬間に二重でいられるなら……今、シュン君にかわいいと言ってもらえるなら、これで最後でいい、これが最後の二重になってもいいッ!」
「やめろーーーーーーッ!」
ということで、シュン君とのデート中にずっとぱっちり二重だった主人公は、その後は自分の部屋で正座しながら、ずっと白目をむいている。口からはよだれダラダラ。限界をこえてアイプチしたんだから当然ですね。
めしを食うか本を買います