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サンタのしっぽをつかめ

初出:『真顔日記』2018年

誰の人生にも、サンタクロースが嘘だと気づいた瞬間があるはずだ。しかし私は思い出せない。いつのまにか、「サンタなんていないでしょ」という冷めた態度になっていた。「サンタいるでしょ!」から「サンタいないでしょ」への転換、この瞬間が絶対にあったはずなのに、記憶がない。

子供の頃から、サンタのしっぽをつかんでやろうと頑張っていた記憶はある。現行犯で取り押さえてやろうと思っていた。だからクリスマスの夜はがんばって眠らないようにしていたのだが、結局は未熟なお子さんであるから、一時間もがんばると熟睡してしまう。そして翌朝は枕元にプレゼントが置かれており、「今年もサンタのしっぽをつかむことができなかった……」と思いながら、ベジータの人形でめちゃめちゃ遊んでいた。それが私の幼年時代である。

当時の自分は何が間違っていたのか。どうすれば、サンタのしっぽをつかむことができたのか。おそらく、親は早起きしてプレゼントを置いていたんだろう。しかし当時の私は、親は夜更かしをしてプレゼントを置いていると考えていた。ここに錯誤があった。基本の発想が間違っていた。

もしも本当にサンタのしっぽをつかみたいならば、がんばって夜に起きているのではなく、はやめに布団に入って朝の五時ごろ目をさまし、たぬき寝入りしておくべきだったんじゃないか。そして親がこっそりと部屋に入ってきた瞬間、目をあけて、笑いながら言うべきだった。

「寝てると思ったかい?」

そして、親からプレゼントを引ったくる。

「これはもらっておくよ。せっかくだからね。もっとも、次からは普通に受け取ってもいい。サンタクロースという方便は不要だ。あなたたちは親として、そのままプレゼントをくれればいい。僕は子として、それを受け取る。当分は扶養される身だからね。それじゃあさよなら。僕は、このベジータの人形でめちゃめちゃ遊ぶことにするよ」

しかしまあ、こんな腹のたつ対応をされたら、来年以降はプレゼントをあげたくない気がする。おまえを喜ばせるためにやってんだよ。

めしを食うか本を買います