チックタック

彼女は生まれた時から一緒に居る。
小学校、中学校、高校と、いつも同じ道程を辿る。
8時43分。彼女の家の前を通ると、丁度彼女が家を出る。2人で学校に向かう。学校に向かう短い時間。
他愛もない話をする。
部活動の終わる時間が同じで、帰る時間も同じ。
今日あった出来事を話す。短い道程。そんな時間が大好き。
彼女が僕の事をどう考えているのかは分からない。
けど、思いを伝えたい。
18時30分。彼女を校舎裏に呼び出した。
部活が伸びて少し遅れた。
「ごめん、待った?」
「ううん、丁度だよ。」
彼女は安心した様な顔をする。
僕は彼女に想いを伝えた。
楽しかった事、幼い思い出、自分の感情、これからの事。彼女はにこやかに聴いてくれた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
僕の話が終わって少し間が空く。
「...もっと子供の時は、沢山一緒に遊んだし、凄く楽しかった事、覚えてるよ。...高校に入ってから、お互い部活動も忙しいし、一緒に遊ぶ事も無くなった。だから...」
付き合うのはやめときましょう。僕はそう心の中で呟いた。
気づいていた。彼女にその気は無いと。ただの友達。たまたま幼なじみで、たまたま登下校の時間が同じ。ただの独りよがり。
「...また会いたい。」
苦し紛れの僕の声を彼女は優しく拾う。
「また、8時43分に。」
既に時刻は19時38分。短い帰り道を共に歩く。

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