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おっちゃん



みんなは電車に乗るとき、右足から乗る?それとも左足?

あたいは右手から乗ります。

右利きなのでね!



去年の夏頃の話。


いつものようにホームで電車を待っていたときのこと。


遠くからビーサンをペタペタ言わせながらガニ股で歩いてくるおっちゃんがいたのです。

そのおっちゃんには悪いけど、小汚い感じのおっちゃんです。

ダルダルに伸びた湯葉のようなタンクトップに、ルフィを彷彿とさせるハーフパンツ。
おまけに手ぶら。(こういった服装の方は十中八九手ぶらなのだ。)

夏休みを満喫する少年がそのまま5、60歳程老けた、そんなようなおっちゃん。



なんだか妙なおっちゃん来た、、と思っていたところに電車が到着。

プシューと扉が開き、おっちゃんはズカズカペタペタ前に進んでいきます。


ホームと電車のちょうど境。

おっちゃんが右足を踏み出し、電車内へ。

そして左足も電車内へ。


そのまま中へ進んでいくと思いきや、おっちゃんは「いや…」といったような感じで首を捻る。


すると、体の向きはそのまま、右足をホームに戻し、

左足もホームに戻したのだ。



あたいの他にも、何人かの人がおっちゃんを見守っていた。

おっちゃんはホームに降りてから2秒ほど一点を見つめ固まったあと、

まさに「えいっ」といった感じで、その頼りない両足でジャンプし、電車内に乗り込んだ。


いや、飛び乗った。


「ビターーン!!!」という、普段電車内では聞くことのないような音が響き渡った。


よくJPOPの歌詞である「♪電車に飛び乗り〜」みたいなやつは、きっとこれのことを言っているんだろうと思ってしまうほど、綺麗に「飛んで」「乗って」いた。

電車に両足でジャンプして飛び乗る人が子供以外でいたのだ。

しかも結構なお歳で、ジャンプがちゃんと出来ることに感心を覚えるくらいの年齢なはずだ。


おっちゃんの思わぬ乗り方に驚きを隠せないまま、おっちゃんを数秒間見守ったあたいを含む数人もおっちゃんのあとに続いて電車内に乗り込んだ。

みなが片足ずつ乗り込んだ。


おっちゃん以外は誰もジャンプしなかった。


おそらくおっちゃんは片足ずつ乗り込むことにしっくりこなかったのだろう。

そして自分のやりたいようにやった。

そんなおっちゃんを見て、あたいは心底羨ましかった。

いいなぁ。


いいなぁ自由で。



「しっくりこなくてもみんながそうしているからそうする」を無意識のうちにやっているであろうあたいからすると、おっちゃんは憧れでしかなかった。


輝いてみえた。


さっきまでただ小汚かっただけのおっちゃんが、

もう、キラキラ眩しかった。

素晴らしくかっこよかった。


さすがに綺麗には見えなかったけど。



その日の帰り道、あたいはスキップして帰った。



あたいも、人に迷惑かけない程度に

好きに、自由に、生きようと思う。



ぴょーーん!



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