リッキー・ジャーヴェイスとかいうイギリスのおっさん

リッキー・ジャーヴェイスというおっさんをご存じだろうか?

小太りで不機嫌そうな表情の犬歯が印象的なおっさんだ。

Netflixで次に何を見るか選んでいた時に「After Life」という作品が目に留まりまった。妻に先立たれた男やもめのその後の人生を描いた作品で、1話が30分弱と見やすいしテーマは重いがあくまでコメディとのことで見始めた。

そこで出会ったおっさん、リッキー・ジャーヴェイス。このおっさんが凄い。

「After Life」という作品は、最愛の妻を亡くし、絶望のどん底で自殺を考えながら飼い犬の世話をするためだけに生きているおっさんの物語だ。職場の同僚からカウンセラー、果ては近所のクソガキまで、出会う人話す人誰彼構わず悪態をつき倒す傷ついたおっさん。
でも施設にいるボケた父親には毎日会いに行ったり、妻の墓園で知り合った未亡人のおばあさんには優しく接したりと本当は心優しいおっさん。
そんなおっさんの皮肉と絶望と後悔と希望と失意となんやかんやが詰まった物語。

泣けます。号泣ものです。

汚いおっさんの皮肉に満ちたアフターライフは周囲の常識人や変人たちからの励ましもあり、少しずついい方向に向かう。
しかし裏では亡き妻との思い出から抜け出せず、1人寂しくDVD見ながらワインを飲んでシクシク泣くのだった。

全然作品の内容をとらえていないが大体そんな感じだ。

この主人公を演じているリッキー・ジャーヴェイスは、もともとはイギリスのコメディアンである。パンチの効いたブラックジョークが持ち味らしく、ゴールデングローブ賞の司会ではタブーなど気にせず言いたい放題。
イギリスのコメディは皮肉の度合いがアメリカに比べ強烈な印象だが、リッキーの場合はさらに強烈だ。
気になる方は「リッキー・ジャーヴェイス ゴールデングローブ賞」で検索してみると記事がたくさん出てくるので見てほしい。すごいから。

そんなリッキー・ジャーヴェイスにはまって彼の作品を追いかけようと思い次に見た作品が「Derek」だ。「After Life」よりも前の作品だが、これを見て俳優としてのリッキー・ジャーヴェイスの凄さに驚愕することになった。

「Derek」は小さな介護施設に密着取材した体のドキュメンタリー仕立てのドラマだ。主人公のデレクはぶっちゃけ頭が弱く、物事をあまり知らない。しかし誰よりも心優しく、人や生き物を愛し、自分は世界一幸せだと言う。この作品はそんなデレクと介護施設の責任者ハンナを中心に描かれる心温まるコメディ。

そこで驚いたのは「After Life」と「Derek」主人公を演じているのはどちらも同じリッキー・ジャーヴェイスであるにも関わらず、全く同じ人間に見えなかったことである。

「After Life」の目つきが悪く、無精ひげを生やしたオールバックのデブは「Derek」では猫背で髪を下して独特の仕草と個性的な笑顔を見せるデブになっているのである。

同じ人間だと分かっているのに目から入る情報を脳が同一人物だと処理できない。こんな経験は初めてだった。クリスチャンベイルの作品でもそんなことなかったのに。

ドキュメンタリー風の作りのせいか、デレクの一挙手一投足がまるで演技に見えず、本当に存在する人間であるかのように錯覚する。というより作品に没頭してしまう。
正直言うと演技の良し悪しの判断には自信がなかったのだが、このリッキー・ジャーヴェイスという男は凄い、素晴らしいとはっきり言える。

一方では毒舌をまき散らすコメディアン、他方では原案、脚本、主演、監督、製作総指揮をこなす映像作家(でいいのか?)。
肩書を集めればキリがないだろうが、その極端な印象が魅力であることに間違いはないだろう。

イギリスのおっさん恐るべし。


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