【卒論ゼミ(5)】 「問い」と「方法」のマッチングとは

第5回です。

前回は、卒論に相応しい問いをどのように「鍛えて」いくのか、というテーマでした。「鍛える」という言い方でイメージされる通り、最初の問いの形でそのままオーケーということにはほとんどならず、高温で熱しながらトンテンカンと叩いた鉄のように、徐々に、しかし大きく、形を変え、くっきりとした輪郭に整えられていく。それが、卒論を進める過程そのものだ、ということでした。

そこでまずは、最初の鉄塊に当たる、問いの候補を、いろいろ挙げてもらいました。最近ちょっと気になってること、という程度のものもあったでしょうし、このゼミに来たからにはぜひこれをやりたい、という意気込みを感じたものもありました。個別具体の事例(なぜ埼玉県のエスカレーター条例はうまく機能していないか、とか)もあれば、結構普遍性のあるもの(なぜスポーツ観戦に夢中になるのか、とか)もありました。「なぜ?」を問うものだけでなく、「どのように?」を問うものもありました(外国ルーツの人たちのインクルージョンはどうしたら可能か、とか、SNSの発信をうまく集客に繋げるには、とか)。それから、「何?」を問うものもあったようです(河原町で一体何が起きたのか、とか)。

どれも、卒論で大事になりそうな問いの形です。それぞれは、どのように関係しているのでしょうか。

前回理論の話をしましたが、理論というのは因果律(因果関係の法則性)であることが多いです。これは「なぜ?」の問いに対応します。これがわかると、未来への予測力が上がります。科学というのは、そうやって進歩してきたわけです。交通渋滞を減らそうと思ったら、渋滞を招く原因(車線減少とか、上り坂とか、ブレーキを踏むこととか)を突き止めて、それを取り除くような施策を打てばいいわけです。

ではどうやって「なぜ?」を突き止めるかというと、まず実際に起こったこと(「何?」)を観察して記録するということをします。そして、それらの「何?」が、どういう順番で起こったのかを考えます。どんな事実がどういう順番で起きるか、ということを見るわけです。これはつまり、「どのように?」の問い(過程に関する問い)です。実際に起きたこと(何)をよくみて、その前後関係(どのように)を突き止める。これが因果関係(なぜ)を特定するための基礎になります。(何はなくとも、「何」を特定しないと始まらない、ということです。)

毎年必ず言うのですが、未来について問うのは、とても難しいです。当たり前ですが、未来は事前に観察できないからです。未来の「何」は特定できないのです。いま何かをすると、未来に何が起きるか。これを予測できるのは、過去に起きた類似の事象の蓄積が大量にあるからです。そうすると、卒論で未来について問うのは、二重に難しいことになります。未来について事前に知ることがそもそも原理的に不可能なだけでなく、未来について正確に予測するに足る分量の過去についてのデータを積み上げること自体がとても高いハードルになります。(なので、「なぜ?」に至らなくても、「何」や「どのように」がちゃんと突き止められてたら、立派な卒論になる時も多いです。)

「何」を把握できるとしたら、過去に起きたことを振り返るか、いま起きていることをリアルタイムで記録していくか、この二つしか選択肢はありません。(いま起きていることは、その記録を分析するときにはもう過去のことです。)問いを考えるときに気をつけてほしいのは、このいずれかが現実的に成立する可能性があるかどうかです。前者の例は文書資料や聞き取り、後者は参与観察や実験などの方法があります。つまり、問いを立てることと、方法を考えることは、セットだということになります。

前回、仮説導出と仮説検証という話も出てきました。「何」を積み重ねると、仮説(「なぜ」のことが多いでしょう)が出てきて、その真偽を確認するために必要な「何」が何で(たびたび紛らわしくてすいません)、それを突き止めるにはどうしたらいいか(=方法)を考えて、やってみる。これをぐるぐるぐるぐる回していきましょう、ということでした。

研究方法(「方法論」と言ったりします)というのは、なかなかめんどくさいもので、研究論文である限り、必ずそれを説明する必要があります。自分勝手にやったのではなく、他の人が同じことをしたら同じ結果が得られるはずだということを示すためです。「知識はみんなのもの」なので、自分一人で知ってるだけじゃダメなんです(苦手だなぁ…)。

しかし、問いが鍛えきられていないうちは、方法の方も確定できない気がしませんか? 実際、そうなのです。だからはじめのうちは、仮説の真偽を確かめられそうなことは、無手勝流でどんどんやりましょう。ただし、その際に気をつけたいのは、やったことはできるだけちゃんと記録しておく、ということです。人に話を聞いたら、その内容を詳細にメモしておく。本を調べたら、その本のどのページにどんな情報が載っていたのかを、書き留めておく。インターネットを検索したら、参考にしたwebページのURLと、検索した日時を記録しておく(ネット上の情報はどんどん改変されてしまうので、いつみたかも大事です)。そうやって記録さえしておけば、後から振り返って、自分がやった「方法」を説明するのがとても楽になります。

そうやっているうちに、どこかのタイミングで、「メインの作業」と私が呼んでいるものを決めることになります。どういう人に何人くらいどういう形式でインタビューしよう、とか、実験をやってみよう、とか、フィールドワークをどこでどのくらいの期間やってこよう、とか、どういうタイプの資料をどういう基準でどのくらい集めてどういう戦略で分析していこう、とか、そういうことです。(これがアンケート調査のこともありますけど、、、前回記事参照。)このメインの作業は、問いを鍛えるのに時間がかかるのと同じように(そもそも問いと方法はセットなので当たり前なんですけど)、最初から決められるものではありません。

ただ、先々でどういう方法を使える可能性があるか、というのは、最初の段階でも想像することができます。みなさんにまず書いてもらうことになる「プロポーザル」というやつは、こういう「問い」を立てたので、これからこういう「方法」で調査を進めていきます、という形式になります。だから、メインの作業を特定するところまで、できれば頑張って到達したいところなのですが、、、多分、そこまではいかないかもしれません。でも、どうにか「問い」と「作業」のマッチングを作ってみてください。

マッチングというのは、ただインタビューをします、フィールドワークをします、というだけでは足りません。具体的に何人に話を聞きます、とか、どこで何日間参与観察します、とか、そういうことを考えてみましょう。私はよく「卒論に適した問いのサイズ」という言い方をするのですが、この「問いのサイズ」とは、言い換えればその問いに答えを出すために必要な「作業」の総量のことです。これを正確に見積もるのはとても難しいです(第1回参照)が、そこは指導教員がお手伝いできるところです。まずは、みなさんなりに、できるだけ具体的に見積もってみてください。

この「問い」と「方法/作業」のセットがちょうどよいサイズにならないうちは、無手勝流に戻って、鉄塊をまずはボカンと割って小さくしたり、別の塊を持ってきたり、二つの塊を一緒に叩いてみたり、試行錯誤を続けることになります。

というわけで今回は、「問い」を立てるには「方法」を知っていることも大事、という結論に落ち着いたようです。プロポーザル前にみんなで方法論を学ぼう、ということを試みたこともありました。しかし、問いがないのに方法を勉強するって、どうも実感を伴わないようでした。それに、網羅的に方法論を全部ちゃんと勉強するというのも、現実的じゃありませんでした。なので、問いとセットで方法についても調べてみる、ということを、ひとまずみなさんに委ねてみたいと思います。

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