【卒論ゼミ(8)】先行研究から学ぼう

さて今回は、予告通り「先行研究」について書いてみます。先行研究を精査することをLiterature Reviewという、という話は、第3回でも書きました。Literatureは不可算名詞で、無限に続く一塊のもので、そのどの辺に何をちょこんと乗せたかが、研究論文の貢献である、といいました。なんだか膨大な作業が必要になりそうに感じますね。

何を隠そう、私自身も、いつも先行研究のレビューをしようと思うだけで、胸が押し潰されるかのようなプレッシャーを感じてしまいます。博士論文を書くときのレビューが本当に大変だったんですね。博士論文というのは、ある分野の専門家であることを証明するものでもあるので、関連分野の先行研究を文字通り「全て」網羅することを求められます。

とはいうものの、この連載の趣旨は、あくまで卒論のガイドになることです。なので、先行研究のレビューについても、卒論をうまいこと進めていくために、という観点で考えていきましょう。卒論で求められているのは、あなたの学んでいる学問の専門家であることの証明ではありません(第2回参照)。その学問の門徒であることの証明、くらいに考えておきましょう。(博士の学位をもらうことは免許皆伝に等しく、だから弟子を取る(=大学で教鞭を取る)ことさえ許されるようになるのです。)

社会科学的な知識をどうやって生み出すか。この作法を身につけるのが、このゼミにおける卒論という話でした(第2回)。みなさんは、まだ作法を全然知らない段階です。なので、先行研究のレビューも、先輩たちに作法を教えてもらうつもりでやるといいでしょう。そうすると最初に考えることは、どうやって「先輩」に出会うのか、ということかもしれません。

その入り口になるのが、論文検索というものです。論文検索サイトと呼ばれるものはたくさんあるようですが(https://www.blog.studyvalley.jp/2021/12/06/cinii/)、みなさんの入り口としては、まずCiNiiとGoogle Scholarの2つを押さえておくとよいでしょう。みなさんはこれまでも、卒論の問いを作っていくために、たくさんネット検索をしたと思います。図書館で本を検索した人もいるでしょう。それらとの違いは、学術論文と見做せるものだけを検索できることです。

CiNiiの方は、国立情報学研究所というところが作ってくれているデータベースで、国内の学術雑誌や学術書籍がほぼ網羅されています。Google Scholarの方は、全世界に散らばる学術論文や学術書籍を検索できます。違いは、CiNiiはデータベースなので情報が有限で、Google Scholarはインターネット上のオープンエンドな情報から関連性の高いものを取ってくる、という形だということです(たぶん)。Google Scholarだと無限にあるように感じますけど、CiNiiだとそんなに多くなくて安心したりもします。(たとえば「スポーツファン」で検索したら、Google Scholarは9,660件、CiNiiは36件、ヒットします。)

なので、目的に応じて使い分けるとよいです。

自分の気になるテーマについて、どんな論文が世の中にはあるのだろう?と思ったら、Google Scholarがおすすめです。関連性の高いものから順番に、たくさん論文がみつかるので、前から順番につまみ食いしていきましょう。網羅的なリストとは見做せないし、重複もたくさんあるのですが、ひとまず上位に来る論文を概観したり、反復的に引用されている論文は何かがわかったり、そういう「雰囲気」をつかむのに適しています。

もう少しテーマが定まってきて、それについて国内にはどのくらいの論文があるのだろう、と、網羅的に先行研究を洗い出したい場合は、CiNiiがおすすめです。ある時点でデータベースに載っている論文の数には限りがあるので、その時に検索して出てくる論文数が、実際に存在している論文数と思っていいわけです。また、その有限個の論文に対して、絞り込み検索をかけられるのが、CiNiiのいいところです。発行された年とか、雑誌の種類とか、言語とか。あるいは、詳細検索を使えば、雑誌名や著者名などでも検索がかけられます。

最初のうちは、検索ワードを色々変えてみることも大事です。たとえば「スポーツファン」に限定しないで、「ファン心理」としたら、CiNiiは47件になりました。「ファン」だけだと、いろんな言葉の一部も混ざってしまうので、72,975件になります。「ファン」のことを、サッカーだと「サポーター」というので、そちらも漏らさないようにしたい、と思うと、いろんな工夫が必要になります。そのテーマに連なっているキーワードについて、「土地勘」が働くようにならないと、検索も一苦労ということになりそうです。

さて、検索の方は、色々試していただくとして、作法を教えてもらう、という観点に戻ってみましょう。ここまで、テーマとかキーワードという言い方をしてきましたが、先行研究を読んでいく時に大事なのも「問い」になります。世の中には、自分と同じような「問い」を持って研究をしている人が結構たくさんいるものです。(「かぶった」と言ってがっかりしないでくださいね。むしろ「ありがたい」ことなんです。)そういう人たちが、どんなアプローチでその「問い」に「解」を出そうとしたのか。これを知ろうとすることが、つまり作法を教えてもらうことです。

あるいは、まだ「問い」が漠然としている段階なら、「似たような問い」というのをたくさんみてみるのもよいです。同じような関心を持っている先輩たちは、それをどんな具体的な問いに落とし込んで、それにどのようにアプローチしたのか。そういう観点でみていくと、「問い」として成立しやすいものが何なのかが、徐々にわかっていくかもしれません。

アプローチという言葉も、ちょっと説明しておきましょう。同じような問いに対して、「心理学的アプローチ」とか、「経営学的アプローチ」とか、「哲学的アプローチ」とか、「経済学的アプローチ」とか、「社会学的アプローチ」とか、「政策学的アプローチ」とか、いろんなアプローチが成立しえます。もっと狭くして「制度論的アプローチ」とか、「ジェンダー論的アプローチ」とか、「ケイパビリティ論的アプローチ」とか、そういう言い方もできたりします。

アプローチを選ぶと、実は、問いもそれに応じてニュアンスが変わってきます。経済学と心理学とでは、解きたい問題の方向性がやっぱり違うんですね。そしてももちろん、研究の方法もガラッと変わります。みなさんが関心を寄せる現象については、どういうアプローチが支配的なのか。先行研究のレビューをしていくと、そういうことがわかってきます。

みなさんは、その全てを事細かに完全に理解する必要はないです。それぞれのアプローチには、それぞれに限界があります。(特定の問題系に特定の方法論で答えようとするんですから、そこからはみ出るものを扱えないのです。)みなさんが解きたい問題が、どのアプローチには適合しないのか。そのくらいの「目利き」ができるようになってくるといいと思います。

反対に、自分が解きたい問題と、自分が選択するアプローチに、ミスマッチがあってはいけません。自分が選択可能なアプローチも、これまで学んできたことやこれから学べることに限りがありますから、無限に選べるわけではないです。「問い」と「方法」の規模の話が、ここでまた出てきます(第5回)。問いと方法のマッチングについてのセンスを育むのにも、先行研究を読むことが有効だということになります。

というわけで、まずは徐々にでよいので、自分と似たような問いを持って行った先行研究を分析的に読んでみましょう。分析的に読むというのはどういうことかというと、バラバラに分解してみるということです。具体的に何を問い、それにどのようにアプローチ(学問分野、理論的な視角、方法、対象など)し、どのような答えが得られ、それに基づいてどのような主張がなされているのか。それを読んで「物足りない」と思うのは、どのようなところか。この辺をメモしていくといいと思います。

(「答え」と「主張」はどう違うのか、という疑問が出そうです。私は自分の先生に、論文を読むときはその論文のメインの主張(argument)を見つけるようにしなさい、と言われました。全ての論文は、一つの主張のために書かれている(べき)なのだそうです。その主張を支持する形で、論理が形作られている。このことを理解するために、トゥールミンという人が作ったといわれるargementation modelというのが参考になるのですが、、、時間切れなので、教室で補足することにしましょう。)

次回は、なるべく早くデータを集めてみることの効用について、お伝えしたいと思います。

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