エスケープちゃん

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学校帰りに自転車を押しながら住宅地を抜ける。いつも通りの帰り道だったはずだ。いや、いつも通りの帰り道にできたはずだった。
鈍い音が聞こえてそちらに自転車を向けたのがまずかった。
人影がふたつ、いやみっつ。地面に一人が倒れている。
俗に言う「いじめ」とやらか。見なかったことにしておきたかったが、先に見つかった。
罵声と人格を否定されるような台詞が弾丸ライナーで飛んでくる。ああ終わった。
瞬間、まず顎に電撃が走る。次は腹。肩、すね、もう一回顎。
制服が土で汚れるのは良いとしてかなり痛い。今なら「なんでも痛み止め」があったら全財産はたいて買う。
奇声を上げる彼らに対しただただダンゴムシになるしかない自分は、このままどうなってしまうのだろうとぼんやり考えていたら衝撃が消えた。
ゆっくりと目を開ける。
さっき倒れていた人だ。隣になんかいる。何あれ。上手く動かない頭でぼんやりと考え、そして少し目が飛び出た。
身長は自分と同じ程度、ただ見た目が何か変だった。
学ランはうちの制服だし髪型もふつう。最近男子の間で流行ってるセンター分けだ。
ただし、腕が出ていない。
学ランを羽織るなんてなかなか窮屈なファッションだと思ったが、
違う。
窮屈なはずのそのスペースが風に揺れている。
腕が出ていないのではなく、腕が無い。
そこまで考えたところで頭がぬるぬるしているのに気付いた。
多分あれだろう。
手を触れるまでもなく分かる。
ため息が出ると同時に意識が遠のいた。

頭から粘り気のある液体を吹き出しながら倒れた女を横目に見つつ、目の前にある死体(2ピース)をどう移動させようかしばし思考。
どうせだから閉塞気密圧縮で簡単にやろう。
小枝を踏み折るような音とともに黄色く染まった肉片を押し潰す。
顔が醜く歪んだままなのが微妙にジワる。ばかめ。
数瞬のうちに丸太ん棒みたいになった略奪者たちをそれぞれ真ん中で二つに折ってアクティブ電磁セグウェイのマフラーに突き刺す。
ついでに女も担いで持って帰ることにした。
帰宅。隣人のカネイさんは朝出た時と変わらずしゃれこうべを垂らしていた。
「風邪ひくよ」とレスを期待しない発言をしてから自分の部屋に入る。
「留守番電話・サービス・が・さんじゅう・はちけん・録音・されています」「うるせえいい加減電話線も断線しろし」「ご利用の・サービスは・えぬてぃーてぃー・ウエスタン・に・お問い合わせください」「ああそうですかばかやろー」
毎日のようにスパム電話を録音して、大事そうにそれを報告してくるこいつが自分は好きではなかった。管理人さん曰く20年以上前のモデルだから大切に扱え、との事だったがその管理人さんも3週間前に産廃ダムで縊死していた。
おおかた絶望性初期若年化だろう、と刺殺ボウイが判定したがもはやそれすらまともに判断しているのか怪しい。
ともかく管理人さんの忘れ形見としてこの電話型コンプレッサーを置いてあるが、やはり喧しい。無線電源を切ろうとしたらスパム電話を一気にぶちまけて大変だった。
丸太ん棒は玄関に立てかけておいて、女は風呂場に置いた。起きたら本能的に神経洗浄をするだろう。
窓を開けて月の代わりに上がっている白鷺タイプの大電球を確認してから眠った。今日生き延びたから明日も生き延びられるか。


よく分からないものを書いています
暇つぶし程度だと思ってください


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