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Phæntom

大学の授業でエッセイを書いたので、こちらで供養。題名は当時組んでいたバンドの名前。写真はフライヤー。


 

全校生徒の歓声。眩しい照明。友人が私を呼ぶ声。速くなっていく鼓動。汗ばむ手のひら。あの20分間を私は一生忘れられない。


 中1の春、どの部活に5年間を捧げようかと悩んでいた。運動は苦手だし、文化部は味気ない。好きなものってなんだろう。なんだろう。音楽だ。大好きなバンドマンのようにステージに立てたら、見る側じゃなくて演る側になれたら。


 私は軽音部に入ることにした。キラキラした毎日が送れる。そんな予感で満たされた。それで中1から高1までたくさん曲をコピーして、たくさんライブをした。徐々に見にきてくれる友人も増えた。来たことを後悔しないように、みんなにとっての青春が私たちのライブになるようにと音を出した。


 高2の夏。1組だけが後夜祭ライブに出演できるオーディションを受け、私のバンドは通過した。今までは小さなライブハウスやホールばかりだったが、ただの部活なので特に「もっと大きな会場で!」なんて、よくいる武道館を目指すバンドのような野心はなかった。しかし今回の会場は全校集会に使う大きな体育館。そして観客は全校生徒約2000人。メジャーバンドのワンマンとほぼ同じ規模だ。


 こんなに大きなライブは初めてだった。


 5年間を共にした相棒とバンドメンバー3人と立つ大きな舞台。幕の内側にいる私たちには、ざわざわとライブの始まりを待つ声だけが聞こえる。もしかしたらスピーカーで音源を流していて、本当は向こう側に誰もいないかもしれない。怖くてしかたない。人がいてもいなくても、とにかく怖い。謎の恐怖と戦っている間に開演時間になってしまった。大きく息を吸う。幕が上がり、暗闇が下から上へと伸びていく。静寂。ゆっくりと息を吐く。幕が上がりきるまでの5秒間がスローモーションに感じる。前の方に友人の顔が見える。みんな、何かを期待している。1曲目はONEOKROCKの「完全感覚Dreamer」。私のタム回しから始まる。スティックを構え、腕を振り、タムを叩く。ギターとベースがタイミングを合わせて入る。と同時に、大きな歓声が湧き上がった。


 この瞬間だ。この瞬間が脳裏に焼きついてはなれない。もう二度と味わえない興奮だった。ボーカルの盛り上げとともに曲が進み、見える顔は笑顔になり、腕をあげたり飛び跳ねたり、みんなも興奮しているのが伝わった。


 部活を引退して、大学受験を経て、今は軽音サークルでコピバンをしている。もしかしたらあの瞬間にもう一度出会えるかもしれない、とどこかで信じながら。



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