高崎店長


 高崎店長は死んでしまった―。
 

 今から15分前、ボクは、この高崎クリーニング店のバックヤードに通された。フリーペーパー『ラブ・タウン』の取材のためだ。

 この時点で高崎店長は元気だった。

 地域の商店街のイケメン店長を紹介するコーナーは、イケメンの定義の曖昧さを苦笑交じりに楽しんでもらえたら幸いといった感じのユルいものだ。

 イケメン店長たちの浮足立ち具合もさまざまで味わい深い。
 これまでこの企画に参加してくれた店長達の中にはたまに面倒くさい人もいた。イケメンとして取材されることに緊張して全然喋ってくれない店長、「店の宣伝になるから出るだけ」とやたら言い訳がましい店長、ガチのナルシストで写真のチェックがやたら厳しかった店長。

 高崎店長は謙遜し過ぎて面倒くさいタイプだった。「どこぞの空気読んでない恥さらし親父が出てきたってことで読者様には笑ってもらえたらね! ははは!!」とテンションも面倒くさかった。
 ボクは、店長をリラックスさせるため「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。フリーペーパーですから」と何気なく言った。
 次の瞬間、高崎店長は、まるでボクの懐に焼けた小石でも入れるようにグッと体を寄せて「自分の仕事を卑下するようなこと言うな!」と叱りつけてきた。
 ギョッとして高崎店長を見たが、店長はすでに表情にこやかに「何でも質問して」とイスに座っていた。
 

 僕が咳払いをしてから「似ていると言われる芸能人は?」と質問すると店長は「いないよそんなのー、誰だろう……」と腕を組んで黙ってしまった。

 長い沈黙が続いた。
 腕を組んで一点を見つめる店長の頭を今月の『ラブ・タウン』で引っ叩いてやりたくなる衝動を抑えて「誰でもいいですよ。こんな細かいとこまで見てる人いないんで」と嫌味っぽく言ってやった。
 すると店長は再びボクに詰め寄り「自分の仕事を卑下するような言い方はよせ!」と顔を赤くした。
 ボクたちはしばらく無言で睨み合った。再び沈黙が場を支配した。

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