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人生を変えた出会い

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出会いの物語・エッセイ集。
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#エッセイ

僕の第二ボタン知りませんか?

シャワーを浴びていて思い出した。 「あの人たち、今どうしてるんだろう?」 一緒に起業した仲間、元同僚、社員、バイト仲間、アーティスト仲間、ファン… と遡っていくと、高校時代のことも思い出した。 そういえば卒業式の時、学ランのボタンは袖のボタンまで全部持っていってもらった。 体操着やカバンや体育館履きも。 在学中はモテていた記憶は無いが、何かしらの人気はあったようで、「もっと早く来てくれたらよかったのに…」と邪なモヤモヤが全開で卒業したことまで思い出した。 当時の僕は「

#5 テレビの向こうのミュージシャン│人生を変えた出会い

回転式の舞台が僕を運ぶ。 「テレビで見ていた登場幕は手動なんだな。」 笑顔で励ますスタッフさんの顔を、妙に冷静な気持ちで見送った数分後、僕はガリバー宇田川になった。 毎週末だけ通っていたボイトレの効果は抜群だった。 上達が早ければ早いほど、細かい技術を教えてもらえるから、週末がテストのつもりで毎日練習していた。 ある日、カラオケで応募できるテレビオーディションを見つけて、その場のノリで応募した。 数日後、電話で一次審査合格の連絡を受けた僕は、浮かれる気持ちを抑え、

#4 夕陽を背負った踊り子│人生を変えた出会い

漢文の授業をサボってバスケをしていた。 家に帰ってテレビをつけると、ストリートダンスの世界大会の優勝チームの名前がコールされた。 夕陽で逆光になったテレビの中で泣く彼女を見て、僕は違う涙を流した。 彼女とは、高校生の頃のアルバイト先で知り合った。 他にもバイトをしているらしく、何のために働いているのか聞くと、ロスでダンスをするためのお金を貯めているのだという。 僕はテレビオーディションで最終審査まで残ったことに自信をつけていた時期だったし、僕はシンガーとして、彼女はダン

#3 彼は笑顔の残像をのこして│人生を変えた出会い

あいつのいない夏は10回以上めぐり、貸したDVDはもう返ってこないと確信してから、また何度も夏がきた。 そしてまた夏がくる。 思いもよらない訃報が届いた。 いつもバカ話をして、最近有名ブランドのバイトのかけ持ちも始めたんだと言っていたあいつが、暑い夏の夜、死んだ。 バイト先には恋も仕事も真っ盛りの年頃からベテランの方までいたが、180cm以上の巨軀をかがめてヘコヘコ現れるそいつは、一瞬でその場を明るくする。 「ウダさーん、あの子エロいっすよねぇ〜!」 まぁ、この年頃

#2 背中に値札をつけた男│人生を変えた出会い

目を疑った。 フロアには2~3人のお客さん。 でもこの日、埃をかぶりかけた僕の曲が息を吹き返したのだ。 その日は、有名レコード会社のプロデューサーを審査員に迎えたコンテスト形式のイベントだった。 当時の僕は、メジャーデビューはできたものの、成功とは言えない状況の中でバンドを脱退し、ソロで再起をかけていた。 横浜の老舗のライブハウスで行われるそのイベントの誘いを受けたのは、3日ほど前。 友人が運営に関わっていて、オーディション形式だと聞いて少しためらったが、出演者が集まら

#1 「YESと言うだけ」と彼女は笑った│人生を変えた出会い

「5年半ぶりですかね。」と僕が言うと、 「さっき会っても5年前に会っても、話すことは変わらないですよ。」と彼女は言った。 現在、複数の会社の人事を担当している彼女とは、5年ほど前、起業に向けて事業計画に追われながら保険の営業マンをしていた頃に出会った。 ある外資系企業の総務部だった彼女は、こちらの営業電話にドライな態度な反面、 「その保障は弊社に必要なので、社長同席でお話を聞かせてください。」 と前向きな提案をしてくれた。 願ってもいないチャンスをもらったものの、アポ当