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酒場とコミュニティ 02「社会の縮図のような小さな空間」

大阪市福島区にある昭和時代のスナック街で、行ったら帰ってこられなくなることから通称が「地獄谷」と呼ばれているエリアがあります。その地獄谷で「地獄谷冥土バー」の店主をしている横田です。
今回、前回と収録しているのはその「地獄谷」と呼ばれるエリアの「地獄谷冥土BAR」というお店からです。

バーの個性は店主の個性

 バーには、わがままで気ままなで個性的な店主がいると思う方も多いように、バーというお店は飲食店の中でも独特な位置にあるのではないでしょうか。
 ラーメン屋の店主にも同じようなイメージを持たれるかもしれませんが、それは味へのこだわりであるのに対し、バーは極論するとボトルのお酒をグラスに注ぐだけです。であれば、バーの個性は店主の個性なのではないでしょうか。

タブーとニュートラルと店主

 昔から政治と宗教の話は会話のタブーと言われていましたが、そんな話もできていたのがバーであったような気がしていました。
 しかし、現在はどうなのでしょうか。
 例えば原発問題の賛否は思想的なものも混在してきて、現在デリケートな話になっています。
そのような話をすると思想的な問題もそうですが、お客様に電力会社を含め原発関連の会社で働いている人がいればどうなのかという問題が出て来るのも事実です。
このような経営面的側面から、バーも個性的なことよりニュートラルの方がいいという考えになって来ているのではないかと感じています。
 現在、このようなことを自由に発言しているのは、ユーチューバーや資産家など、外部からの収入が安定している人だけかもしれません。そういう意味では、自由な発言ができない鬱屈された自分へのある種カタルシスとして、ユーチューバーたちを支持する人がいるとも考えられます。  NHKをぶっ壊す、などと声高に叫ぶ人たちが支持されるのもそういうことなのかもしれません。 僕は店主としてポリティカルな話もする方ですので、今では特異なバーなのかもしれませんね。

キャンセルカルチャー

 橘 玲(たちばなあきら)※が書いた本の中に「キャンセルカルチャー」という言葉があります。これは、誰もが自分らしく生きたいと願う社会では、自分らしく生きられない人が、自らの「社会正義」を振りかざして相手の存在を抹消(キャンセル)しようというものです。
 今の時代、性別問題、人種問題、エネルギー問題などの大きな社会問題がそれなりに整理させてきている中で(本当は何も解決していないのですが)、次の問題、より小さな差異に目を向けざるを得ないような社会構造となってきています。
 大きな問題自体がそもそも問題なのですが、そこではなく、その中でのちょっとした差異が炎上対象になるんです。芸能人を含めて立場のある人たちは、魔女狩りのようなキャンセルカルチャーを恐れて、SNSで大切で大きな社会問題について発言をしないのではないかと思います。

弁証法的発展と似て非なる否定論破手法

 弁証法的発展は、あるテーマに対して否定することから、よりよいプランが出て来るというものですけれど、今はテーマを否定したら、そのまま論破して終わってしまう傾向にあります。面と向かって議論しにくくなっているように思えます。
 そういう議論ができないことを利用した某政治家も使うテクニックですが、まず現状の否定から入って論破すると非常に楽に主導権が取れる。主導権さえ取ってしまえば、それ以降の提案が素晴らしくても素晴らしくなくても、否定された側が議論しにくい状態を作り出す。こういう論破型で相手の話を聞かずにすすめていく手法が幅を利かせているように思います。
 小さな空間にも様々な社会の縮図のようなドラマがあり、ですが侃侃諤諤話せるのが本来のバーの姿だと思っています。

橘 玲(たちばな・あきら)
作家。元・宝島社の編集者、雑誌『宝島30』2代目編集長。「マネーロンダリング」(2002年幻冬舎)などの金融小説のほか、「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」(2002年幻冬舎)、「言ってはいけない 残酷すぎる真実」(2016年新潮新書)などの著書がある。
橘玲公式ブログ


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