第3章 3話 居心地スペクトル(3/3)
「スペクトル」
絵はここで一旦 間を取った。
虹のこと?と私は雨上がりの空にかかった虹を思い浮かべた。
すると絵は、一息ついてうっすら笑みを浮かべて説明を始めた。
「そう。虹も同じ原理。スペクトルは入力した純粋な1本の光が、プリズム屈折によって一定の干渉を受けて出力する時、波長ごとに色分けされて虹のように表現されるという科学的現象。これは人間が個性的に「出来事を解釈し感情表現する」と同じなんだ。
感情も波長だからね。
同じものを見ても同じ体験をしても解釈は人によって違う。その解釈は過去体験したことの情報が影響してる。それぞれにクセがあるんだよ。変換媒質のプリズムは君の「内面世界観」ということ。
君のスペクトルもだけど色は変化する。その時の感情で。それはオーラとしても現れているよ。
例えばメンターの事をイメージしてごらん。」
私は顔や話してる姿を思い浮かべた。
「スペクトルがすごくクッキリバランスよく綺麗に現れてる。表面的には混乱したみたいだけど潜在的なレベルではいい関係性だよ。君もメンターを信頼しているし君への影響もいい。」
そのあと長い説明が続いた。
それをまとめると、
内面世界観(クセ)が外の現実を作っている。例えば、苦労しないと成功しないと思っていれば、その観念に沿った苦労が降り注ぐし、うまい話には裏がある現実世界に生きることになる。それは単なる個人的な設定で真理ではない。
ただそれは、ある意味一致した整合性のある状態。
それを聞いて私は思った。
私の場合は、一致していなかった。薄々感じていたり直感をちゃんと信頼せず、過去の苦い経験と結びつけて感情が世界観を排除していたのだった。
だからメンターに対する潜在的なスペクトルを認識せずに、私はただ対処療法として心を鎮静化させようともがいた。
「お気に入りの苦しみ」とはいつも目の前に最上級の愛があるのに、それは偽物だという証拠を必死で探そうとする事だった。
最上級の愛とは、ただそこに存在するだけで至福や感謝を感じられる愛。求めることも与えたいと思うこともなく、ただ愛がいつもと変わらずそこにある。
絵の顔が3つに分かれ、透明なのは、私自身が一致していないこと、どれも本物の私ではない状態を表していた。
ここに確実に喜びがあるのに、信じられず懐疑心を抱き、平常を保とうと霞を掴んでもがく。
このお気に入りの苦しみのパターン。
これには理由があった。
その理由を聞きながら私は感じていた。
絵の顔の輪郭がくっきりしてきている、と。
「君はまだ自分を信頼しきれていない。十分信頼に値すると分かっているのに。これに関しては、今のメンターの在り方が導いてくれるだろう。」
そして、絵はもう1つの理由を話し始めた。
「君の概念で言うと前世というべきかな。君は敬愛するメンターに可愛がられ学んでいた。愛に包まれていた。しかしメンターは、その学びをよく思わない抵抗勢力により殺害され突然他界してしまったんだ。君はその時、喪失感に耐えきれず自死している。その時の師弟関係の無念のエネルギーが君に残っていて、いつか失うかもしれない恐れを持ちつつも、絶対的な愛を知っているという2つの矛盾した情報を元に今の感情が出来上がっている」
この話しを聞いた時、その顔はハッキリと輪郭を帯び、3つの顔がゆっくりと重なり正面を向いた1つの顔に統合された。
「え?!まだ私はこれからでしょう?どうして顔が1つになったの?」
私は少し慌てて聞いた。
「知ること。認識して受け容れて意識すること。そして行動すること。これがこの3次元の現実を変える力。今、知って受け容れたことで表層(現象)と深部(原動力)が一致した。
一致すると現実を作るエネルギーが8の字を描いて回転し始めるんだ。あとは、自分を信じて。」
私は1つに統合された絵をしっかりと見つめてゆっくりと頷いた。
カランカラン♫
喫茶店のドアが開き聞き慣れたベルの音でハッと目が覚めた。
「え?!夢?!」
壁にかかった時計の短針は5時を指し、店内にはそれなりにお客さんが入っていた。
目の前の女性はいない。
しかし、夢ではない。
なぜなら、私はあれだけ重く鬱々と丸まっていた気持ちが、今はしゃんと伸びている。
そしてテーブルを見ると、1人の男性の写真が置かれていた。それはまさしく絵の男性だった。
私は直感し、おへその下あたりに温かい確信を感じた。
次は、この男性と出会う。きっと。