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第1章 1話 宇宙采配のキス(1/3)

自分に起こる出来事と、時間軸のほんとうの関係性を描いた、ノンフィクション振動ストーリー。


ストーリースタート

 白い天井が恍々と迫ってくる。

 天井からピシッと微動だにせず伸びた一筋の裸電球は、第五チャクラに向けて見えない何かを放っている。

 ここは、東京郊外のとあるアパートの一室。きれいなメゾネットタイプの2階。

 私は顔を埋めるホールがあるポータブルベッドに仰向けに寝ていた。
 第五チャクラはスロートチャクラと言って、喉のあたりに位置する。生活が実在している洋室で裸電球というミスマッチ。これは電球じゃなく超音波が出る装置だわ。きっと声が出ないようにするための。ここは本当は宇宙船かもしれない。
 そんな妄想をしながら気づかれないように、「ア・ア・ア」声を出してみた。すんなり声は出た。
 そして今度は体は動かさず、そっと眼球だけを360度ゆっくりと動かし、辺りを観察した。
 頭頂から一間(いっけん)ほど向こうにはベランダに出られるサッシがあり、天井に向かって視線を動かすと、壁にカーテンレールがついている。右端からじーっと視線を動かしてみた。左端終点。錯覚かな?天井と並行であるはずのカーテンレールが、微妙にハの字を描いているように見える。しかも下がっているカーテンも重力に反して上部で弛(たる)んでいる。    
 逆さま世界のような現象に思わず好奇心から体を動かしてカーテンと床の接点を確認した。するとカーテンは武士か歌舞伎役者の長裃(かみしも)のように床にひきずっていて、要するにサイズがあっていない。
 そしてテーブルの上には3種類のチョコレートとお灸と....だいたい360度見渡して脈略のなさに懐疑心は、笑いに変わった。単に、生活というものに関心がないのだろうという結論に至った。

 結局、身の危険を証明する捜索活動は無駄に終わり、断念。安心してまぶたを閉じた。

…ん。いや、違う。怪しいのは部屋ではない。この状況なのだ。

 そもそもその空間には男と私、だけ。
 その男は怪しいと言われて改めて眺めれば十分すぎるほど怪しい。健全を主張するかのような、お日様照らす爽やかな真昼間ではあるけれど、1本、細身の注射を打たれて、昏睡中に内臓をえぐり取られても抵抗無理な状況。だけど、その点においては、不思議と私にはなんの不安も感じられなかった。むしろ、ほっと安らいでいた。
なぜなら。

 波動は嘘をつかない。つけない。言葉や外見では真意を隠していい人に見せることもできるけど、波動は、個人の意思や意図では誤魔化しがきかない。
 むしろ、一見人のためにやっている良さそうなことも、それがもし自分の欲やエゴを満たすためであれば波動はそれを映し出す。逆に社会通念的に、極端に言えば窃盗や殺人など法で裁かれるような事をしても、もしもそれが純粋な愛や感謝に基づいているならば、自分で罪悪感を感じない限り、波動は愛と感謝を放つ。目には見えないから、みんな解っていないけど、人間誰しも波動を纏い放っている。

 その男の表面からは、想像もできないような、慈愛の優しさに溢れた波動を感じていた。だから、内心外見とのギャップにワクワクしていた。「一体、この人は何者なの?どういうこと?!」

 そして今、私は、どうやら覚醒するための施術中...らしい。
そもそも覚醒の施術と言われて、何もわからずのこのこ部屋に出向く自分も相当変わり者だわ。自分に苦笑いした。


 外からは日常的な車の走る音、鳥の声が聞こえてきて、これも、人間原理で存在していて実は虚無、ここはやっぱり宇宙船なのかな、なんて思いを馳せる。

 1つ1つ施術毎に体の構造を熟知した説明が入り、「今、緩むから」と声をかけられるとふっと体内を何かが通過するのが分かる。鈍感な私にも。

 だけど、説明が聞き慣れない専門用語ばかりで、一体どこのことを言ってるかさえ分からない。無知の知を思い知らされながら、感覚だけを頼りに施術内容を理解しようとしていた。

 体の感覚と、理解したいけどできないという脳のパンクで、理解を「放棄」しつつあったので、いっそこの心地よい波動をちゃんと感じ取って、この人が何者か?確認しようという方向に意識を向け始めた。

 外界と遮断するかのように自然とまぶたが落ちた。

 浮かんできたのは、この人の持つ柔らかく優しい何か?寂しさ?孤独?
 いや、それとも違う。無の感覚だった....。静寂がおとずれ、心が静まりかえった。

 その時、

 ふと、私の唇に、何かが触れた。

 慈愛に溢れたとても柔らかい感触。

 しかしそれは、すっと離れ、また静寂に戻った。

 そして、しばらくして、もう一度私の唇に、なんとも言えない心地よく柔らかな何かが触れ、その時は、もう 深くそれを求めていた。

 ア....

 私は、優しいエネルギーにたまらず、両手でその人の体を自分に引き寄せた。

 カラダに心地よい電流が走り、こめかみよりも後ろの耳の上のあたりから脳にジワーッと生温かい至福が溢れ出し、一瞬「エンドルフィンってこれだろうか?」と思ったけれど、言葉は消え魂がすべてを請け負った。

 どのくらいの時間が経ったのだろう。

 言葉ではない、音でもない。形式を持たない情報がすっと身体に浸透した。
 この男はこの次元の者ではなく
そしてこの出来事がこれから異次元との間(はざま)を行き来するためのイニシエーションだったことを理解した。

ほんとうは存在していなかった。


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