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ファーストデートの思い出

 恋愛経験が少ない私にも、忘れられないファーストデートがある。

それは今の夫との初めてのデートではないのだけれど、いや、夫とのそれも忘れられないのだけれど、今回は一番心にぎゅっと残った青春のファーストデートの思い出だ。

それは私が大学に入学して間もない、初めて親元から離れて、大学の寮で生活がスタートした頃だ。初めての飲食店でバイトを始めた。初めての街での初めての人間関係。ほとんどが初めてで始まった大学ライフは刺激的だった。

彼とはバイト先で出会った。
そこのバイトは焼肉屋さんの接客だ。
黒いキュロットと白のブラウスというシンプルな制服を渡されて、ジュージュー焼かれた焼肉の重いグリルを変える。ここでレモンサワーの作り方や、生ビールの注ぎ方も教わった。

そこの店長に、君は良いふくらはぎをしているねー。と言われながら、大学の授業が終わったあと、夜中までの数時間、働いていた。
それがセクハラなのか嫌味なのかそんなことは当時の私にはどうでもよかった。
それよりも一緒にサービスをしていた気になる同級生の男の子と話すのが楽しみだった。

大学は同じだけど、学部は違うからほとんどバイトでしか顔を合わさないその彼は、一見大人しそうな外見なのに、口から出る話は全て面白くて、鋭い観察眼で私をたくさん笑わせてくれた。
そんな彼のギャップに一気にはまってしまった。

でも彼に彼女がいるかどうかなんて聞く勇気は当時はなかった。

そんな彼に影響されて、私はバイト代で原付バイクを買った。
早速それにかこつけて彼とスクーターデートをすることになった。
そこまでの流れはめちゃくちゃ自然でスムーズで、私は心の中でガッツポーズをしていた。
でも私から彼への想いはダダ漏れだったみたい。

彼との初めてのデート。バイト以外で会うのが嬉しすぎた。

彼は私と違って地元の人だったので、スクーターで私の知らないところに連れて行ってくれた。
まずは海を目指そう。と、ぶんぶんぶんーとスクーターを走らせた。
あとは動物園にも行った気がする。
正直言うと、どこに行ってどんな話をしたのか、詳細な記憶が残ってない。
私の頭の中は、彼は私のことをどう思っているんだろう。
その事しか考えていなかった。

不安と期待で胸がいっぱいだった。
そういえば、そこまで会話が弾まなかった気もする。

お昼は穴場っぽいカレー屋さんに連れて行ってくれた。
そこは彼の行きつけだったみたいで、店員さんと仲良く話している。
カウンターに座って、出されたカレーを食べていると、おもむろにその店員さんが私を見ながら今日は彼女を連れてきたんだー?とダイレクトに聞いてきた。
キターーー!

きゃ〜〜!!

顔が一気に熱くなる。
心の中で叫びながら、彼がなんて答えるのか、めちゃくちゃドキドキしながら横目で彼を見た。

彼はうーん。とタメてこう言った。
いや、僕のおねーちゃん。

ガーン

・・・・

私は、笑いながら、なんでよー!と彼の腕をバシッと叩いたけど、
めちゃくちゃショックだった。

お姉ちゃん、かぁ。

いや、実年齢は私の方が年上よ。
1年浪人したからね。
いや、そこじゃないか。
彼は私を友達以上として見れないと、優しく教えてくれたのだ。


現実を突きつけられて、どーんと落ち込んだ。

そして、なんとなく解散して、
楽しかったスクーターデートは終了した。

彼からまた今度行こうな。という言葉はもちろんない。

それ以来なんとなく関係は遠くなってしまった。
学業が忙しくなって私は焼肉屋のバイトも辞めた。

そもそも、彼との連絡は私の方からしかしていなかったことに気づく。

次に続かなかった、たった一度きりのファーストデート。

ううぅ、今思い出すと顔から火が出そうなくらい恥ずかしいくらい私の気持ちはダダ漏れだった。
自分の気持ちばかり先行していて、相手のことを考えられていなかった気がする。
もし、もっと上手くやれていれば、友達として長く付き合えたのかも知れない。彼女じゃなくていいから、友人として関係を繋いでいけたらよかった。
残念ながら当時の私にはそんな人間的余裕はなかった。

彼にはめちゃくちゃ感謝している。
こんな私と1日中、スクーターでデートをしてくれて、最後までずっと優しかった。

実らなかった恋だから、当時はそれを消化するのに時間がかかったけど、
時間がかかったのは、良い思い出にするための煮込み時間だったのね。と今は思う。

そんな切なかったファーストデート。

note のおかげで思い出した。



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