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『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜83本目〜

 続編ともただの再編集版とも違う。まぎれもなく完全新作であったことに驚いた。『この世界の片隅に』は何度も観たことがあるし、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は別に観に行かなくてもいいかなあと思っている人も多いかもしれない。だが、そんな人にこそ「騙されたと思って、1度本作を観に行ってみて!」と声を大にして言いたくなった。本作には、私たちが3年前には観ることのできなかった新しい「片隅」の世界が拡がっているのだから。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019)

原作:こうの史代 / キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典 /
脚本・監督 : 片渕須直 / アニメーション制作:株式会社 MAPPA

【キャスト】
北条すず(のん)、北条周作(細谷佳正)、白木リン(岩井七世)、黒村晴美(稲葉菜月)、黒村径子(尾身美詞)、浦野すみ(潘めぐみ)、水原哲(小野大輔)、北条円太郎(牛山茂)、北条サン(新谷真弓)、テル(花澤香菜)

       「代用品のこと考えすぎて疲れただけ」

物語の概要

 18歳のときに急遽江波から呉に嫁ぐことになったすず(のん)は、慣れない場所で慣れない人たちと過ごしていく生活を余儀なくされていた。ある日、呉での自分の居場所に思い悩んでいたすずは、自分と年の近い遊女の白木リン(岩井七世)と出会い、仲良くなる。すずにとってリンは、呉でできた何でも話せる初めての友だちであり、心のオアシスでもあった。しかし、すずは、リンが周作(細谷佳正)の過去の女性であることを知ってしまい、激しく心を揺さぶられる…。これは、戦争という荒波の中で自分の居場所を探し続けたすずさんの物語だ。

本作の魅力

 前作『この世界の片隅に』では、「すずと径子」の関係性に焦点を当てた物語が構成され、戦時中を生きた人たちのドラマが丹念に描かれていた。一方、本作『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、「すずとリン」の関係に照準を合わせて物語を再構成しており、すずの心のうちに宿した思いや葛藤が前面に描かれた作品となっている。したがって、前作と本作では鑑賞後の余韻や感想が随分違ったものになるはずである。これは「視点が違えば、同じ原作から全く異なる2つの作品が生まれる」ということを目の当たりにした瞬間であった。「すずさんが主役の物語」。そのように感じる人は前作よりも多くなっているのではないか。

 『この世界の片隅に』の世界を「もっと知りたい」と思う人にとって、本作は最高の1作といえるだろう。本作で新たに追加された新規作画は250カット以上あるので、その新しいシーンはどこなのかと探したり、逆に、前作で用いられていたシーンのどこがカットされているのだろうかと探したりすることができて楽しい。そしてそれだけでなく、既存のシーンが全く違った意味をもつシーンになることもあるので、最後まで目が離せない。これがもうめちゃくちゃ面白かった。鑑賞後、もう一度『この世界の片隅に』を観返して、本作との対比をしてみたくなるに違いない。

 自分の力ではどうすることもできない厳しい現実を前にして「どう生きていけばいいのか」。いろんなことを諦めながらも毎日を生きていくすずさんの姿を見て心を揺さぶられた。絶対に安心のできる自分の居場所というものは幻で、そう思っていた居場所も実はぎりぎりのところで立っているだけでやっとの危なげな場所であるのかもしれない。本作のすずさんの生き方は、自分にとっての「居場所」はどこなのかを考える良いきっかけとなった。

おわりに

 前作に引き続き、本作も劇場で鑑賞することができて幸せであった。何よりも今回はパンフレットを買うことができて、本当にラッキーであった。購入したときには「ちょっとこのパンフレット大きすぎないか」と思っていたのだが、中を開いてみるとこの大きさの意味がすぐにわかった。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の魅力がこの1冊にこれでもかといわんばかりに濃縮されていたのだ。このパンフレットは大切にしよう。そう静かに心の中で誓った。原作のマンガを読み返したい気持ちと前作の映画を観返したくなる気持ちが同時に押し寄せる素晴らしい作品であったなあ。

予告編

↓『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の予告編です↓

(出典 : 【YouTube】シネマトゥデイ 『この世界の (さらにいくつもの) 片隅に』予告編)

↓ちょっとだけすずとテルの会話シーンが観れる↓

(出典 : 【YouTube】シネマトゥデイ 花澤香菜演じるテル『この世界の (さらにいくつもの) 片隅に』本編映像)

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