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ヨーダの物語 8

 玄関を入るとすぐに土間があり、その奥に台所があってロザリータが料理の仕上げをしていた。
「あら、今日は遅かったのね。荷物が遅れたの?」鍋をかき混ぜながらロザリータが言った。
「いや。あ、そう、荷物はまあまあ遅れたんだが、それだけじゃあなくてね。拾い物っちゅうか、いや物じゃないな、拾い猫みたいなもので、なんかキャベツみたいなちっちゃい生き物がいてね・・・。ほら、出てこいよ。おれのカミさんにあいさつしなさい、怖くないから」
 赤ん坊はゴンの大きなブーツの後ろ側に隠れていた。耳の端だけがロザリータには見える。
「えっ?なに?」ロザリータが近づいてくる。赤ん坊は少し緊張した様子でブーツの陰から出てきてロザリータを見上げた。
「まあかわいい、この子どうしたの?」
「野菜の荷台のなかに入ってたんだ。中のラディッシュをたらふく食ってな」
「坊や、お名前は?親は?坊やでいいのかな?」
 赤ん坊は、またゴンのブーツの後ろに隠れてしまった。
「こいつを見つけてから港に引き返したけど、もう貨物船は行ってしまった。また明日いって、心当たりのある人を探してくるよ」
「はやく親が見つかるといいわね・・。この子、どの種族かしら?見たことない感じだわね。」
 ゴンは足元をみて、「おい、そんなところで恥ずかしがっててもしょうがないぞ。これからラディッシュよりもっと美味いモン食わしてやるから出てこいよ」と赤ん坊に話しかけた。
 赤ん坊は、またとぼとぼと歩いてブーツの陰から出てきた。ロザリータとゴンの顔を、黒眼がちな瞳で交互に見上げる。
「やっぱり食い物の魅力には勝てないみたいだな、とリあえず食べよう」ゴンは赤ん坊を抱きあげると食卓へ向かった。
 食卓には葉物やラディッシュの乗ったサラダの大皿と、スープと焼かれた麺のメインが並んだ。赤ん坊にちょうどいい大きさの椅子は無いので、椅子のうえに分厚い本を積み重ねて高さをだした。
 赤ん坊ならゴンかロザリータの膝の上でも良かったが、子供のいない二人は赤ん坊の扱いに慣れていなかったし、体は赤ん坊のように小さいが、歩けるくらい成長しているので、抱っこで食べさせるのはやめておいた。もしかしたらしゃべれないだけで、すでに成人した知的な種族かもしれない。

(ヨーダの物語 9につづく)