ハゼノキが創り出す灯り① 舞台照明としての和蝋燭
みなさんこんにちは。最近は毎月テーマを変えて書いているこちらのnote。先月は「ハゼノキの色」を中心にお話をしてきたのですが、ハゼノキから生まれる恵は、色以外にもたくさんあります。その代表的な一つが「灯り」です。という事で今月は「ハゼノキが創り出す灯り」に関して書いていこうと思います!
みなさんはハゼノキが創り出す「灯り」というと何が思い浮かぶでしょうか?やはりハゼノキから作られる工芸品で最も馴染みのある「和蝋燭」ではないでしょうか?
今日はそんな和蝋燭の話を中心に、和蝋燭の「灯り」が舞台照明としてどのような役割を果たしてきたのか?こちらを中心にお話していこうかと思います!
■町の「灯り」としての和蝋燭
江戸時代、市中では和蝋燭はどのような使い方をされていたのでしょうか。ハゼノキが西日本全体への普及したのは、享保の改革(1716年~)以降となるため、和蝋燭としての「灯り」の役割を果たしたのもそれ以降という事になります。ただし、ハゼノキが普及してからも一般的な家庭内の灯りは、油に灯芯をしたしただけの行灯がほとんどでした。そのため享保の改革以降も家庭内で蠟燭を灯すという事は一般的な家庭では非常にまれでした。江戸時代を通じて和蝋燭は非常に高価な商品でした。
本筋と全く関係ありませんが、この行灯で有名なのが「化け猫」でした。当時は灯火用の油はイワシ油が使われることも多く、そのイワシ油を舐めに行灯に近づいてきた猫の影が、だんだんと大きくなってくる姿が化け猫を連想させたそうです。化け猫が油をなめるというエピソードも同じですね。
次に演劇側ですが、出雲の御国から始まった歌舞伎を例に挙げると、江戸時代初期は客席側に屋根はなく、自然光の中で演劇が行われていました。江戸中期には屋根がつくようになり、夜間は蝋燭を補助灯に上演されていたようです。しかし、江戸で相次ぐ火災が発生し、正徳四年(1714年)には夜間上演と併せて灯火の使用が禁止されました。この当時使われていた蠟燭が何の蠟燭だったのかは不明です。
歌舞伎は元文年間(1739年~)から徐々に劇場化され、屋内での上演が主流となっていきます。併せて蝋燭が補助灯としての役割を復活させることになります。詳細が不明ですが、この時点でハゼノキを原料とする木蝋を原料とする和蝋燭が使われ始めたと推察されます。こうして、和蝋燭の「灯り」が一般的に「灯り」としての役割を果たしていくことになります。ただし、舞台上の選出としての使用は禁止されていたようです。
■歌舞伎の「灯り」としての和蝋燭
ではどのように和蝋燭は使用されてきたのでしょうか?歌舞伎の入門書である式亭三馬の著書『戯場訓蒙図彙』(しばいきんもうずい)によると、花道や舞台全般の照明となる「カンテラ」、役者にスポットを当てるための「面あかり」、さらにフットライトのような役割をはたした「イザリ」と様々な用途で使用されていました。これは現代の舞台照明とも通じるところです。
また、それらの灯火を扱う舞台の裏方として、蝋燭方が配置されていたようです。ただし、和蝋燭だけの灯火では、舞台上の明るさが十分取れなかったようで、窓番とよばれる自然光をとり入れる裏方と併せて、舞台照明の担当者としての役割を果たしていたようです。図解されている灯火の大きさを鑑みると主照明が自然光、間接照明が和蝋燭という分担だったようです。
最初に触れたように、和蝋燭自体は一般的な家庭では使われない程度には高価な商品でした。桟敷席は高価でしたが、立ち見料金などを考えると、和蝋燭それほど潤沢には使えなかったとも推察できます。少量でより効果的な魅せ方をする演出方法に落ち着いたと思われます。
■寄席の「灯り」としての和蝋燭
歌舞伎の舞台として間接照明として使用された和蝋燭。では大衆芸能ではどういった使い方をされていたのでしょうか?和蝋燭は主照明とはなりえなかったのでしょうか?実は主照明として使われていたものがあります。それが「寄席」でした。江戸落語の寄席では噺家さんの左右に和蝋燭を配置し、その灯りで落語を楽しんでいました。
また、落語における最高位である「真打」の語源ともいわれる和蝋燭の「芯打ち」。寄席の最後に登壇する落語家が照明である和蝋燭の芯を打ち、暗転させることで寄席を終わらせる。その資格を持つ噺家として、芯打ちが転じて真打という言葉生まれたとされています。
このように実は落語と和蝋燭は非常に面白いつながりを持っていたりします。そんな落語の舞台でもある「寄席」の主照明として使われていたのが和蝋燭でした。
実は今年の2月真打である桂伸衛門さんによる江戸落語の再現の照明演出をさせていただく機会がありました。次回はその時のお話をメインに照明としての和蝋燭を深ぼっていきたいと思います!お楽しみに!
【参考文献】
斎藤信一, 新井英伸,花柳寿寛福: 芸能とあかり~江戸時代の舞台のあかりとその検証~, 照明学会誌, 第99巻第12号: 656-659, 2015.
山崎ます美,和蝋燭の歴史,自然と文化72号,日本ナショナルトラスト,32-37,2003
日本舞台照明史編纂委員会:日本舞台照明史,日本照明学会,1975.
式亭三馬,勝川春英,歌川豊国,戯場訓蒙図彙,堀江六軒町(江戸) 上総屋忠助,1806.文化庁デジタルライブラリーより
山本吉之助,舞台の明るさ・舞台の暗さ~歌舞伎の照明を考える,歌舞伎素人講釈,2007.3.26,https://www.kabukisk.com/dentoh51.htm,参照2024.8.4
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