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「知らないを好きになる」余談〜WEBサイトから編成方針を定義する試み

今回は、ただの雑談記事です。

「知らないを好きになる」

これは僕が文化放送でビジネス開発部長(兼メディア開発局次長)の時に、文化放送のWEBサイトをリニューアルする際に見つけた言葉です。

一緒にサイトを作った会社さんと何度も打ち合わせを重ねたのですが、最初に聞かれたのが「そもそも内田さんにとってラジオとは何ですか?」でした。すごく根源的な質問で一瞬言葉に詰まったのですが、そこで自分が考えるラジオとは何かを色々話しました。その話を受けて出てきたタグライン候補の中に「知らないを好きになる」がありました。

*タグライン…企業や商品が顧客に提供できる価値を、想いとともに分かりやすく表した短いフレーズ

https://blog.nijibox.jp/article/tagline/

文化放送にもキャッチフレーズはあるのですが、当時、僕の中で文化放送がどこを目指しているのか、何が価値なのかもっとしっかり示すべきではと思っていました。

当時のキャッチフレーズは「あなたのマイメディア 文化放送」でした。

そもそも何のためにキャッチフレーズを作っているのかが近年文化放送の中で漠然としていたように思います。昔は1年ごとに変えていたのですが上記のキャッチフレーズは3〜4年使っていました。

文化放送のキャッチフレーズについては僕は意見を言える立場になかったのですが、文化放送社員としては編成方針やビジョンに対して忸怩たる思いもあり、WEBサイトリニューアルの際に「WEBから文化放送とはどうあるべきか示そう!文化放送を再定義しよう!」みたいな事を言っていました。(後で何勝手なこと言っているんだと編成部から言われました(笑)権限も職務管掌領域も越えているので文句というか当たり前の主張だとは思います。)

サイトリニューアルのメインは先行する他局と同様に番組で出てきた話を記事にしてWEBサイトに掲出するようにして、記事を読むことからラジオ番組聴取に繋げようというのが狙いでした。

30分番組は聴くのに当たり前ですが基本30分かかるので、リスナーでない人にいきなり番組を全部聴いてもらうのは難しいです。なので、3分程度で読めるような記事を書いて、それを外部メディア(Yahoo!ニュース、LINEニュースなど)に配信して、通勤通学時間、余暇の時間に、ラジオ自体は聴く習慣がないけど暇つぶし情報収集で記事なら読んでくれる人をまずつかまえようと思っていました。

30分番組にせよ、3時間生ワイド番組にせよ、どの番組のどこの部分を記事にするのかを決める必要があり、その時に「知らないを好きになる」つまり「知ってもらうと好きになるか」かを基準として記事として取り上げるか決めることにしていました。

*「知らないを好きになる」の具体例は、1つ前の記事に書きました

ただ、WEBサイトリニューアルについて途中で僕は担当から外れてしまったので最後まで関わることができず、僕が構想したサイトとは少し違った形で2021年3月にオープンしました。

タグラインはそのまま掲載されていました。



文化放送全体のWEBサイトの担当からは外れたのですが、A&G事業部の責任者としてA&Gカテゴリー担当としてリニューアル後のサイト運営にも関わっていたので尊重してくれたのかもしれません。単純にいったん決めたことなのでそのまま進めただけかもしれません。

ただタグラインは掲げたものの、その後の記事の編集方針がそのタグラインを意識したものであったかはわかりません。(おそらく意識されてないと思われます)

WEBサイトリニューアルの目的は下記でした。


(1)トップページの活性化…それまではサイトのトップページがラジコの再生ボタンがあってタイムテーブルとバナーがぺたぺた貼られている構成で、リスナーにアクセスしていただく割に情報の更新頻度が少なかったので、各番組サイトが更新されたら新着記事としてトップページにも引っ張ってきて表示するようにして、ぱっと見た感じから活発にして文化放送を活気ある放送局に見せたかった
(2)外部メディアに番組記事を配信をするために配信できるような記事を各番組ごとに作る習慣を作るため
(3)WEBサイト自体で収益化できる仕組みを作るため(広告、記事広告)
(4)当時は番組サイトを色々な仕様で作っていたためコストがいちいちかかっていたので、WordPressなどの共通のCMSで構築することでサイト制作コストを削減(ヘッダー画像のデザインくらいに留める)する

(1)については一定の目的は達することはできたのですが、当初はシンプルに記事中心のサイトデザインだったのですがサイトオープン後、「やっぱり放送局のサイトは今、何の放送をしているかリスナーにしっかり伝えるべき」という社内の意見も根強く、その意見を反映した改修を重ねられるうちにごちゃごちゃになっていきました。

どこを見たらいいのかわからず、結局、ラジコの再生ボタンも目立たないのでは?

A&G担当としては、番組はradikoにせよ、超!A&G+にせよ、アプリからの聴取がメインと考えていたので、番組聴取ボタンはWEBメディアサイトではワンクリックした後にプレイヤーとして表示される程度で十分で、記事サイトとして新規リスナー獲得のための引きになるような仕掛けを優先すべきと思っていました。

なので、A&Gサイトについてはごちゃごちゃになるのは頑なに反対していたのですが、文化放送退職した後にサイトを見たら、光の速さで他のカテゴリー(文化放送、I&C)と同様なサイトデザインに変わっていました。無情。(まあ、仕方ないですが)

7月以降のA&Gサイト。これもどこを見ればいいのか、広告もでかい

(2)についても一定程度、そういう記事を量産できる体制になりましたが、結局、Yahoo!ニュースやLINEニュースへの記事配信ができていないので(2024年10月現在)、結果的に、文化放送サイトとradikoニュース、スマートニュースの「文化放送チャンネル」で読める形になっています。(「Yahoo!タイムライン」というのにも去年の3月から配信されているそうですが僕はどうみたらYahooで読めるのか未だにわからず。)


(3)のWEBサイトの収益化ですが、当初から①記事広告②アドネットワーク収入の2軸で考えていました。アドネットワーク収入というのはWEBサイトに掲載されているバナー広告からの収入ですが、これはサイトのPV数を考えてみて当初からそこまで大きな収入にはならない見込みでした。(クリック必要でかつ広告単価が0.1円とかなので)記事広告の方が(a)コンテンツ制作ノウハウを文化放送は持っている、(b)広告販売するのに自社の営業マン以外に取引のある広告代理店、クライアントも多数。(c)他のWEBメディア運営会社で既にそれなりの金額で広告として売れていた。なのでWEBメディアサイトとしてある程度成長した暁には記事広告を主軸にマネタイズをしていこうと考えていました。

*ラジオのプロデューサーの腕の見せどころの一つに、いかに番組クライアントの訴求したい内容を、番組となじませて宣伝くさくない、リスナーがエンタメの一つとして受け取りやすい形にできるかというのがあります。そういうことを局のプロデューサーは皆いっぱい経験してきています。

ただ、実際には、バナー広告を設定したところで終了してしまい、記事広告が実現することはありませんでした。担当ではなかったのですが、どうしても気になったので何回か記事広告をやろうよと担当者に言ったのですが「人もお金もない」という返事で終わりでした。無情。

諦めきれなかったので勝手に記事広告のモデル、パイロット版になりそうなWEBオリジナル記事を作ってみたのですが、散発的に記事を書いても中々バズることもなく、文化放送の番組で取り上げられることもなく、編成部、デジタルソリューション部との連携もできなかったので8個記事を作ったところで諦めました。

「ねとらぼ」「オモコロ」等を意識したWEBオリジナル記事


文化放送全体で考えるとやはりA&G以外も多いので一般ジャンルでオリジナル記事を作ったのですが、もっとA&Gに寄せて作った方がA&G番組も絡められて良かったのかなと今となって思います。

バナー広告については、サイトオープン時の広告掲載位置、掲載サイズは僕も他社のサイトの例も調べながら決めたところがあったので責任があるのですが、サイトオープンから1年経過して、どれぐらい広告収入があるのか担当者に確認したら実に微々たる金額だったので、だったらサイトのファーストビューを占めすぎている広告は外して番組記事へ誘導した方がサイト訪問者の体験価値が上がるので良いのではないかと提案したのですが、微々たる金額でも欲しいということで、そのバナーはそのまま掲載されることになりました。

広告についていうと、僕は、レコメンデーション機能のバーターで入ってくる怪しげな広告は放送局のサイトにはなじまないと思っているので、それもA&Gに関しては拒否していたのですが、これも退職後みたら反映されていました。無情。(入ってくる広告収入よりもサイトを訪問したリスナーから忌避感、引かれる度合いの方が大きそうですが。今は、世間一般的にあまりそういう広告って気にされないのでしょうか?僕が気にしすぎなのでしょうか。インターネット広告をめぐるブランドセーフティ、アドフラウドの問題とは直接的には少し違うのかもしれませんが、電波の方で厳密にCM考査しているのに、低品質、内容不明瞭な広告を自局のWEBサイトに載せることは、自ら自分たちのサイト価値を下げてしまっているような気がします。)

ブランドセーフティ…広告出稿が原因で企業や製品のブランドイメージを毀損するリスクと、そのリスクにどう対応するかに関すること

https://webtan.impress.co.jp/g/ブランドセーフティ

アドフラウド…広告詐欺

https://webtan.impress.co.jp/g/アドフラウド

あと、番組記事にマストで入れている記事中の動画広告スペースも毎回同じ動画CMや謎の天気予報動画がループで流れてきますが、あれは果たして収益になっているのか疑問です。同じ素材がループということは実広告は入ってなくて穴埋め素材が入っているのではと推測しています。とりあえず記事を読むユーザー体験は間違いなく悪くしているし、その悪印象は当該記事や掲載サイトにも残ってしまうと思います。

(4)についても、番組サイトについては目的を達成したのですが、放送局のサイトということで中心に番組データベース、番組表(タイムテーブル)がある構造だったので、番組に紐づかないサイトは結局、新規に別で作らないといけないままになっていました。これもサイト構築の計画段階では、何にでも応用できるテンプレートを1つ作っていたはずだったのですが、途中で僕が担当から外れたので、その段階で、「この機能何?何に使うの?」「何に使うんでしょうね?」となって、A&Gに関係している人間が会議に入っていなかったので、そのまま実装しないことになったようです。

A&Gはタイムテーブルに紐づかないA&Gオールスターなどのイベントサイトや、A&Gアカデミー、AG-ON Premium、A&Gメルマガ、文化放送モバイルPlusなどの各種事業、サービスのサイト構築、個別番組とは直接関係しないA&G関連ニュースの配信などA&Gファン向けに考えていたのですが実施できませんでした。(単純に記事として1つ1つ書けばいいというのが、A&Gコンテンツに直接関わらないデジタル部署側の社員の意見だったのですが、それだと、その記事がきちんと集積していく場所(たとえば、A&G業界ニュース公式サイト)が作れませんでした。(公式サイト(ポータルサイト)がないと、なんか唐突に秋アニメの紹介しているな…という感じになるので、なぜ、その記事を文化放送A&Gサイトで配信されているのかがわからず。。)

残念ながら総じて失敗したなというのが今はあります。

反省点・改善点としては


(1)ラジコなど番組聴取に誘導するサイトはランニングページ(LP)として別途作る。(番組聴取をしたいリスナーは検索からLPに誘導する)

(2)放送誘導と分けることで、WEBメディアサイト(記事サイト)は思い切り振り切る。そこでは番組に直接関係しなくてもリスナーや扱っているジャンルに関係する記事は掲載できるような構えにして、それによって配信される記事の一般的な興味関心度合い、価値を高める。その価値の高さを評価してもらって外部メディアへの配信を実現し、またサイト全体のPV数アップを実現する。

文化放送は「文化」というどこにでも手を広げられる看板を期せずして持っているので、「文化放送サイト」ではやれなくても「文化サイト」ならやれるのでは?
僕はオリコンみたいなサイトになってもいいのではないかと思っています。

(3)収益化については記事広告にしっかり取り組む。僕がお手本にしていたのはヨッピーさんの記事でした。メルカリのPRなんですけど、あくまでもメインは「最古の学生自治寮への探索」ということで読者の興味を引っ張っていきます。
ラジオの制作スタッフの企画力、構成力、実行力、そして番組出演者のパーソリティー性、影響力も絡めれば、ラジオ局ならではのおもしろ記事(広告)が作れると思います。
そこでも軸は「知らないを好きになる」にはこだわります。サイトの運営方針、記事の編集方針も、どれだけ他が見つけていない「知らない」を見つけられるかで他のメディアと勝負します。

ちなみに、2023年の文化放送のキャッチフレーズは「好きがつながる文化放送」でした。「好き」が入っているので「知らないを好きになる」要素も少し入ったのかなと勝手に思っていますが、やはり僕としては「知らないを好きになる」の方がいいなと思っています。

「好きがつながる」は1つ何かリスナーの「好き」なものが文化放送のコンテンツの中にあったら、その1つをきっかけに芋づる式に文化放送の中で好きなものが見つかるよ…という意味かなと思うのですが、それはやはり、その人の「好き」に依存してしまうので、放送局発信のメッセージとしては強くない気がします。それよりは自信を持って「あなたが知らない好き」を文化放送は見つけられるし届けてますよ!と一歩前に出て自信を持って宣言して欲しいのです。

とはいえ、その前の「もっと過激に もっと優しく 文化放送」は本当にないなと個人的に思っていたので「好きがつながる」の方がずっと良いですが。

まず放送局で今の時代にキャッチフレーズが「過激にいこうぜ」は盛り上げ方がヤバいというか怖いし(過激で競ったらYouTube、X、TikTokに勝てないとも思います)、その後に「もっと優しく」と自分で言うところも怖いです。優しいか優しくないかは自分以外の相手が決めること、受けとめ方、評価なので、自分で自分のことを「優しい」と言っているならヤバいなと思いました。

キャッチフレーズって、こうなろうぜ!という局内外に対するメッセージなので、その点においては、その前の「ミミからだとココロに届く」というのも音声だと心理的に良い、素直に言っていることが伝わるということを証明する科学的データがあるわけではない中で、実際にリスナーから気持ちが伝わったと言ってもらえること自体はありがたいし、そういうこともありますが、自分から言い始める、喧伝するのはヤバい気がします。

今年は「オトナのホンネ 文化放送」です。

本音と建前の「ホンネ」ですが、ラジオで本音が垣間見えるのは良いところですが、それだけがラジオではないと思っているし、エンタメをやっている人間としては「ホンネを言え」と強制されるのも違うかなと思います。また本音は局面によっては言う方も言われる方もある程度覚悟が必要なので、文化放送にそれだけの覚悟があるのかわかりません(反語)

過去の文化放送キャッチフレーズはWikipedia参照ください。

もう「知らないを好きになる」が文化放送のキャッチフレーズになることはないと思いますが、僕にとってはコンテンツ作りを続けてきて長年かかってようやく言語化できただと思っているので、僕はこれからも、このタグラインを胸に、好きになれる知らない探しを続けていこうと思います。


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