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テラフォーミングマーズについての短考察:称号と褒章の独自性

以前、テラフォーミングマーズのカードに関する記事を書いた。

先日プレイした際に、上記記事の内容とは別に、褒章と称号について気付きがあったので文章にすることにした。
当記事はある程度の知識があるボードゲームのゲームデザイナー、デベロッパー、ユーロ文脈のボードゲームファンを読者に想定して書いた。

マイルストーンについて

ユーロゲームにおいて、
・中短期的な目標としてのマイルストーン(達成目標)
・最終的な目的としての終了時マジョリティ
という2種類のメカニクスは頻繁に用いられる。
これらは簡単に、それでいて魅力的なインタラクションを外付けで付与でき、非常に使いやすいメカニクスだからだ。

マイルストーンがゲームに登場すると、閾値を超えたかどうかで点数が大きく上下する。
つまり、ゲームに非線形性が付与され、創意工夫や手のゆがみが発生する。
また、プレイヤー全員に等しく機会が与えられるもののため、「マイルストーンを他者に取られる」ことは、自分の利益の可能性の逸失を意味する。
従って、プレイヤーはそのマイルストーンの達成から得られる便益の大きさが一定の基準を満たしていれば、他の同じ便益が得られる行動よりも優先してこれを行いやすい

これは余談だが、
「食料を払えなければ-3点」と言われれば必死で食料を集めるが「食料を払えれば3点」と言われれば「まぁちょっとくらいいいか…」と思って払わないプレイヤーが出る。
損失に対する人の判断は合理性を欠きやすく、本当に面白い。
「-50を0に近づける」のと「0を50に近づける」のは本質的に同じだが、ゲームデベロップメント的には大きく意味が異なる。

種族能力とマイルストーンの食い合わせの悪さ

種族能力があり、それぞれの種族が異なる戦略を取るゲームにおいては途端にマイルストーンのメカニクスは使いづらくなる

なぜならば、それぞれが独立した目標を目指した場合、マイルストーンの獲得を急ぐ必要がなく、手を歪めないからだ。

マイルストーンは、概ね全員が同じ方向を向いており、誰がそれを取るかの1手の争いがなければその機能を失ってしまう。

これを鮮やかに解決しているのが、テラフォーミングマーズにおける称号だ。

テラフォーミングマーズでは、5個のマイルストーンの中から、先着で3名だけが達成できる。
他者の自分と関係のない目標の達成が、自分の目標の達成可能性を押し下げる。
これにより、5つのマイルストーンはすべてかかる手番数という一軸で評価され、常に急ぐ必要がある。

種族能力と終了時マジョリティとの食い合わせの悪さ


プレイヤーたちは、ゲームの中での努力や成果によって差がつくことは許容するが、ゲームの外で差がつくことをあまり好まない。
(手番傾斜に関する言及が多いのはこれが要因だ。これは数字的なバランスの話ではなく、プレイヤーが抱く納得感の問題である。)
従って、特定の種族が勝ちやすいマジョリティというのはなるべく存在してはいけない。

そうなると、種族によっていろんな戦略をとるゲームでは、少し無味乾燥なものを比較することになる。

テラフォーミングマーズにおける褒章は、またもや「5つ中3つをゲーム中に起動する」という方法でこれを解決している。
特定の種族が勝ちやすいマジョリティを入れてしまっても、ゲーム中に決まったことならばプレイヤーは不快感を感じにくい。これはゲーム中の努力の問題である。

まとめ

・直接的に比較できない物事や要素でも、かかる手番数などで一軸に並べれば強引に比較することができる
・ゲーム中に決定するのであれば、不公平な終了時マジョリティでも受け入れやすい

同じ方法で異なる問題を解決しているのも芸術点が高い、本当に優れたゲームだなあと感じる。

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