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黒田依直/玉野勇希『猛禽と墓碑』



「アルヴァ 」 黑田依直

柊が肋骨の色を晒して降る季節に
時刻が白い想念を崩していく季節が重なり
残酷な生涯の葉脈が片羽を生む季節を過ぎて
アルヴァ、人体の照応説 瀝青の箱が流れてゆく
靑を孕んだ都市が滅ぼされるとき
密命の朔風が運ぶ甘い香り、きみの本性の
唇の亀裂は永遠に分かたれた日付
天体と人間の、塩の柱と臓器群の隔たりの
世界という暗号を病んだ、心の花弁を記す筆記を
遠望するのもまた私の生であり、歴史の墓碑銘である

そして遠景が燃え、

あなたのキリストも
あなたのユダも
あなたの使命も、ローマも、アダムも
エクソリアすら、時の葉脈を崩す波に攫われてしまった正午
現代は生者と死者が分かたれた穢土となり
照応説の深夜、密かにあなた(と聖者たち)の死を
天蓋の骨に解読する時刻を、供花と呼ぶ
刻印されている、靑空の言語は危機に瀕している
終焉の無限遅延の世界にはまだ朝がやってくる

全てを覆い尽くし、流してゆく神の嘔吐が降るまで
白い時刻が私の背後で終焉を想像するまでは
まだ我らは生を記述する必要があり、想像する事を受胎するだろう
懐胎するカイン もしくは繭籠もりの女たち
人間の土地から遠く隔たる塔の群れに
昔は空を飛んでいた天使たちが翳る
そこに一人で歩む青年が居る 言葉を連れて


「Holy grail」 玉野勇希

やがて━━執達吏が夜の封印を貼りに来るだらう。

封印の魔法はいくつもメソッドがあつてあなたが選ぶメソッド

かすかにピアノの洩れてゐる坂道の家へも。

弦楽の音はとほくてなぜだらう チャーチ まばた・きするた・びに夜

おう 今笑つてゐる者、テレビの画面の腹話術師に。

液晶のむかうがはでは人形が悪態をついてゐる真似をする

おう 孤独の獅子使ひ、退廃する動物園の只中で。

ネコ科のマンション 遊星のマンション 口笛の死者を廊下にかなしんでゐる

庭の木の瘤に 凡ての歌は言葉を病んでゐる。

ラブでしかなほらない病気(ラブでしかなほらない病気になりたくない!)

そして蜥蜴は知るだらう。石の中へ消えていった死者
   たちの記憶。

あらかじめ規定されてたやうに降る雨に蜥蜴はぬるぬるひかる

洗はれてしまつた血の中の声の冷たさ。

クリスタル・ナハトを糖衣が覆ひつつ、あたたかいこゑをありがたうございます

成就されない雑草たちの昼間の陰謀のほとぼりを━━。

たとへばもし言語消失したあとの〈エラー〉記憶のなかの陰謀
         †
ジュース とぷとぷとぷとそそがれて聖杯から零れてしまふ ラブ

※詞書はすべて鷲巢 繁男「死者たちへの手帖」(『夜の果への旅:ダニール・ワシリースキーの書 第壱』)より引用した。


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