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与那国滞在記-1

あれは夏の暑い日のことでした。
春先から積もり続けた小さな疲れたちがそろそろ限界を迎えようとしていたその頃、ふと思い立った事には「そうだ、秋休み貰おう」。
秋休みを貰ってどこかへ行こう、そうしよう。
そうと決まれば(まだ決まった訳ではありませんでしたが…)何処へ行こうかと心弾ませたわたしの頭に浮かんだのは
a)パキスタン・フンザ
b)沖縄・与那国島
の二択でした。
フンザについては前々から行ってみたいなというほのかな憧れを抱いていたので、ふと浮かぶに何ら不思議はありませんでした。
与那国島については、なぜポーンとこの名が浮かんだのかが未だに分からないというのが正直なところです。
沖縄本島にもやんばると呼ばれる北部を始めまだまだ行ってみたい所はたくさんあるし、離島の中でもこれまで与那国島にはあまり関心を向けてもいなかったからです。
しかし大して検討するまでもなく、フンザは会社員が有給休暇で得る一週間程度の時間で行くにはアクセスが悪過ぎる。
着いたと思ったらとんぼ帰りするのが関の山になりそうでした。
となると、残るは与那国島です。
調べてみれば、どうやら
a)那覇から飛行機
b)石垣島から船or飛行機
で行かれるらしい。
石垣島ならおそらく東京から直行があるはずだな…とすればアクセスは悪くはない。
しかし船と飛行機、どちらを取るか迷うところだ。
日常においては船に乗る機会などないので、せっかくなら船旅を選択したい。
しかし与那国行きのフェリーはゲロ船と呼ばれる程に、なかなか手強いらしい。迷いどころです。
とりあえず東京から石垣島往復のみ手配し、石垣から与那国は追って検討する事にしました。
本当ならなるべく早く、何なら9月にでも行きたいくらいでしたが、台風直撃の可能性があまりに高すぎるので10月まで我慢する事としました。

与那国島で何をしたいかと言えば、早起きをして朝の散歩をし、アラビア語の勉強などしつつ気が向いたら海に入ったりそこらを歩き回りたい、くらいのものでした。
しかし思い出してしまった事には、与那国島にはミステリアスな海底遺跡があるのでした。
忘れていたけれど、この海底遺跡には前々からかなり興味を抱いていたのだった…。
思い出してしまったからには、行かないわけには参りません。
調べてみれば体験ダイビングでもその一部を見る事が出来るらしい。
なんと。子供の頃湘南でちゃぷちゃぷやった程度にしか海に入った事のないわたくしでも行けるのか。
俄然やる気が湧いてきます。
調子に乗って水中カメラなど新調してしまいました。
Nikonのやつです。
わたしはカメラについて何にも知りませんが、初めて自宅で目にしたカメラがNikonのEMであったというただそれだけの理由により、なんとなくNikonを支持しています。
結局船酔いを恐れて石垣から与那国も飛行機を選択し、後は旅行の日を指折り数える日々が続きました。
ちなみに石垣〜与那国間の飛行機(RAC)は、直接JALのサイトから購入するのがいちばん分かりやすく安い(往復割で片道7000円)のかなと思います。

変わらぬ労働の日々を経ていよいよ旅行の日を迎え、前日終わらなかった荷造りやら植物の水やりやらを終えて家を出れば、果たして飛行機に間に合うか否か微妙な時間に差し掛かっていました。
初めて使うLCC、どうやらターミナルが遠いらしいではないか。
間に合う…間に合うに決まっている…と念仏のごとく心の中で唱えながら急いで向かったところ、間に合いました。
大抵のことは念じればどうにかなるものです。

到着した石垣島の宿は、「なんとなく良さげ」という理由で選んだ白保という集落の中にありました。
「街の喧騒から離れて落ち着いた集落」「サンゴの浜まで30秒」という謳い文句が「なんとなく良さげ」の根拠でしたが、実際良かったです。
街の中心部へはほぼ15分おきに走るバスに乗ればすぐでありながら、白保の集落は昔ながらの雰囲気を残す落ち着いた地域でした。

次に石垣に行くときにも白保に泊まろうと思わせてくれる良いところでした。のんびり歩くのが好きな方にはお勧めの地域です。
街へは足を延ばさず、白保から歩ける範囲内をぷらぷらしてその日を終えました。

そして翌日はいよいよ与那国へ出発です。わくわく
前日夜にお願いしておいた宿の朝ごはん(庭で採れた野菜など使われていて美味しい)+宿の女主人のお友達が作られたというパッションフルーツのゼリー(試作品、このパッションフルーツも庭で採れたやつ)やケークサレ(試作品)など頂き、元気百倍というものです。
飛行機は午後だったので、浜と集落を少し散策したのちバスで空港へ向います。
なお、白保の浜は昔は綺麗な砂浜だったそうですが、今は大きな珊瑚の塊がごろごろしています。
昔を知らないわたしには、今の風景も充分に美しいのだけど。
(しかし海の向こうから流れ着いたであろう多くのゴミには閉口してしまいますが。。。)
わたしは浜をうろついて貝やら珊瑚やら拾うのが好きなので、白保の浜は延々歩き回ってお気に入りの珊瑚など拾い集めることが出来そうでした。
しかしこれから与那国に向かう身で荷物を増やしても仕方がないので、拾いたい気持ちをグッとこらえて浜を後にします。
石垣から与那国は小さな飛行機で、文字通り「ひとっ飛び」、シートベルト着用サインが消える時間が笑ってしまう程に短いくらい、あっという間でした。
プロペラ機の窓から見えた与那国島は、他のどの島とも違う険しさと深い青の美しさが共存する島でした。

到着した小さな空港から迎えに来て頂いた車に乗り、同宿の女の子ふたりと共に宿へ向かい、簡単に島の地理など説明して頂いたのち、軽く歩こうと外へ出ます。
島はもう秋らしく爽やかな風が吹いてはいましたが、東京とは比べ物にならない程にまっすぐで強い陽射しが降り注いでいました。
海に面してお墓と言えどもおどろおどろしさの薄い浦野墓地を抜け、謎の凱旋門+ピラミッドらしき建造物(後から調べたことにはこちらもお墓らしい)を見るなどし、さらにとことこ歩いてアダンに挟まれた白い小路を進めば、目に飛び込んできたのは崖に囲まれた驚くほど美しい小さなビーチと海でした。
えっちらおっちら崖を下って美しい海を独り占めし、再びえっちらおっちら上がって進むと目の前の濃い緑の草一面には強い陽の光が反射してきらきらしていました。
水陸どちらも言葉に出来ぬ程に美しい。

この日は散策はこの程度にし(陽射しに負けた)、宿から少し離れたふくやまスーパーでいくらかの買い物をして宿に戻りました。
同宿の方にお誘い頂き、女酋長というお店でかじきの刺身ほか美味しい料理に舌鼓を打って与那国初日を終えたのでした。
2につづく

山羊とわたし


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