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わたしたちはどうやって「感情」が「感情」であることを知るのだろう バーバラ・H.ローゼンワイン+リッカルド・クリスティアーニ『感情史とは何か』刊行記念 訳者陣厳選フェアリスト<協力:岩波書店>

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オセローが妻の寝室に入ってくる時、妻が理解するのは彼の言葉ではなく話し方の意味である。「お前の目が見たい」、「俺の顔を見ろ」と彼は言う。これらの台詞は、愛情を込めて言われるならば恋人の哀願でもあり得ただろう。だが、妻デズデモーナには分別があり、理由は分からないながら、彼の言葉の裏側に「憤激」があることを理解する。オセローが泣き始めると妻は尋ねる。「ああ、つらい、どうして泣いていらっしゃるの?」
 これらは400年ほど前に書かれた戯曲の登場人物たちの言葉であり、シェイクスピアが感情や感情表現を理解した複雑なやり方を垣間見せてくれるものである。この場面で私たちの心が動かされるということは、登場人物たちの感情的な苦しみに今でも共感できるということを意味する。しかし、それは私たち自身の感情的な苦しみなのだろうか。そして、私たちはその同じ苦しみを同様に表現するだろうか。感情史は、こうした問いに答えることに力を尽くす。つまり、感情史とは、過去において感じられ、表現された感情を扱い、また、何が変化し、何が過去と現在を結びつけているのかに注目するものである。

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感情史とは何か
バーバラ・H.ローゼンワイン、リッカルド・クリスティアーニ
伊東剛史・森田直子・小田原琳・舘葉月 訳 ¥2,700 岩波書店 978-4000614504 2020年
恐怖、怒り、幸せ――感情への眼差しは歴史学をいかに変えるのか。他分野からも注目されている感情史。その魅力と最新動向を「科学」「アプローチ」「身体」「未来」の切り口からコンパクトに紹介する。権力、共同体、ジェンダー、身振りなどを巡って、感情を軸に新たな歴史像が浮かびあがる。学際研究への示唆にも富む、最良の入門書。

以下は訳者厳選フェアリスト
尚、各書目のコメントは選書した訳者によるものです。

●感情と歴史学 (名著から最新の入門書まで)

中世の秋 ㊤』¥1,200 978-4122066663
中世の秋 ㊦』¥1,200 978-4122066670
ホイジンガ
堀越孝一 訳 中公文庫プレミアム 2018年
「暗黒の中世」のイメージを一変させた、感情史の原点ともいえる大著。色彩美の描写とそれに揺り動かされる感情の分析は、いまなお読み応えがあります。

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文明化の過程〈改装版〉 ㊤ ヨーロッパ上流階層の風俗の変遷』¥4,800 978-4588099267
文明化の過程〈改装版〉 ㊦ ヨーロッパ上流階層の風俗の変遷』¥4,800 978-4588099274
ノルベルト・エリアス
赤井慧爾・中村元保・吉田正勝 訳 法政大学出版局 2010年
人びとが自らの情動(アフェクト)のままに振る舞うのではなく、自己抑制するようになる過程を、中央集権的な国家の形成とからめて論じた、感情史の出発点に位置する書の一つ。

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感情史の始まり
ヤン・プランパー
森田直子 監訳 ¥6,300 みすず書房 978-4622089537 2020年
著者プランパーは歴史家。にもかかわらず(!?)、本書の内容は文化人類学から神経科学まで多岐にわたり、すこぶる面白いこと請け合いです!

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感性の歴史
L・フェーヴル、J・デュビィ、A・コルバン
小倉孝誠 編訳、大久保康明・小倉孝誠・坂口哲啓 訳 ¥3,600 藤原書店 978-4894340701 1997年
心性、感性、感情は違うのか? フランス・アナール学派の、人間の心理や感性、感覚に着目した研究のアンソロジー。

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感情の歴史 Ⅰ 古代から啓蒙の時代まで』¥8,800 978-4865782707
感情の歴史 Ⅱ 啓蒙の時代から19世紀末まで』¥8,800 978-4865782936
A・コルバン&J-J・クルティーヌ&G・ヴィガレロ監修
片木智年 監訳 藤原書店 2020年
心性史や感性史に接続するフランスのアナール学派の感情史でありながら、バーバラ・ローゼンワイン(1巻)や、ヤン・プランパー、ウーテ・フレーフェルト(3巻)らの寄稿もある感情史の必読書!

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歴史の中の感情 失われた名誉/創られた共感
ウーテ・フレーフェルト
櫻井文子 訳 ¥2,400 東京外国語大学出版会 978-4904575697 2018年
女性が「怒る」ことになぜ社会は不寛容なのか、というtwitter上でも注目された話題。その歴史的経緯を考えるためにも絶好の一冊!

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痛みと感情のイギリス史
伊東剛史・後藤はる美 編著 ¥2,600 東京外国語大学出版会 978-4904575598 2017年
痛みは普遍的なのかーー生と痛みが絡まり合う感情の諸相を、イギリス史を舞台に描き出す。

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エゴ・ドキュメントの歴史学
長谷川貴彦 編 ¥3,000 岩波書店 978-4000223034 2020年
魔女裁判の告白書、遊女の日記、前線兵士の手紙……様々な資料から新たな歴史が浮かびあがってくる。

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キャリバンと魔女
シルヴィア・フェデリーチ
小田原琳・後藤あゆみ 訳 ¥4,600 以文社 978-4753103379 2017年
女性は感情的であり、自己を規律化することができないという女性観の誕生は、資本主義の成立と手を携えた現象であることを説く。

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人権を創造する
リン・ハント
松浦義弘 訳 ¥3,400 岩波書店 978-4000234986 2011年
独立宣言や人権宣言など、人間の平等を謳った思想を追い、〈共感〉という心理的・身体的経験から,西洋近代社会を読み解く.

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ショコラ 歴史から消し去られたある黒人芸人の数奇な生涯
ジェラール・ノワリエル
舘葉月 訳 ¥3,200 集英社インターナショナル 978-4797673371 2017年
「君が何について笑うかで、君が誰かが分かるだろう。」ベル・エポック期のパリで、黒人道化師ショコラはなぜ人気者になったのか?

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インド ジェンダー研究ハンドブック
粟屋利江・井上貴子 編 ¥2,200 東京外国語大学出版会 978-4904575673 2018年
『感情史とは何か』にはかけている「西洋」を相対化する視点を得るために。

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●感情から社会を考える

管理される心 感情が商品になるとき
A.R. ホックシールド 石川准・室伏亜希 訳 ¥2,900 世界思想社 978-4790708032 2000年
「感情労働」という言葉が広まるきっかけとなった社会学の研究。旅客機の女性客室乗務員の笑顔は彼女の本当の気持ちの表れなのでしょうか?

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情念の政治経済学〈新装版〉
アルバート・O. ハーシュマン
佐々木毅・旦祐介 訳 ¥2,000 法政大学出版局 978-4588099854 2014年
〈情念〉の否定と抑圧に忙しい17世紀の思想界に〈利益〉という新しいパラダイムが登場するや、利欲をして諸情念を調教せしめ、もって社会の安寧をはかろうとの志向が高まる。啓蒙期の論争を辿って、M.ウェーバーとは異なる角度から資本主義のエートスを発掘する。(出版社HPより)

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感情と法 現代アメリカ社会の政治的リベラリズム
マーサ・ヌスバウム
河野哲也 監訳 ¥4,800 慶應義塾大学出版会 978-4766417197 2010年
 一見すると感情とは無関係に思われる法が、いかに感情と切り離せないかを示す法哲学の基本書です。

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コロナ時代の僕ら
パオロ・ジョルダーノ
飯田亮介 訳 ¥1,300 早川書房 978-4152099457 2020年
未知の感染症を前に、私たちはどのような感情を抱くのか。非常事態宣言下のローマで綴られたイタリア人作家のエッセイ。

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●脳科学・心理学からの感情論

感情 ジェームズ/キャノン/ダマシオ 〈名著精選〉心の謎から心の科学へ
梅田聡・小嶋祥三 監修 ¥3,300 岩波書店 978-4000077989 2020年
感情の科学研究の祖として、ダーウィンと並んで名前が挙げられる、ウィリアム・ジェイムズの思想のエッセンス。

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情動はこうしてつくられる 脳の隠れた働きと構成主義的情動理論
リサ・フェルドマン・バレット
高橋洋 訳 ¥3,200 紀伊國屋書店 978-4314011693 2019年
感情史研究でも盛んに参照されるアメリカ人心理学フェルドマン・バレットの話題の書! 標題が少々とっつきにくいものの、内容は刺激的で一読の価値があります。

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感情 〈1冊でわかる〉シリーズ
ディラン・エヴァンズ
遠藤利彦 訳 ¥2,000 岩波書店 978-4000268844 2005年
定評ある「〈一冊で分かる〉シリーズ」。その後の研究の進展はめざましいものの、感情を理解する出発点としてお薦めできます。

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恐怖の哲学 ホラーで人間を読む
戸田山和久
¥980 NHK出版新書 978-4140884782 2016年
哲学的思考の難解な部分もあるけれど、著者の語り口とテーマの面白さに引き込まれてしまうこと間違いなしの一冊です。

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●「感情」小説、文学、SF

わたしを離さないで
カズオ・イシグロ
土屋政雄 訳 ¥800 ハヤカワepi文庫 978-4151200519 2008年
愛や感情をもつことで、人間であることを証明しようとする痛ましい物語。

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すばらしい新世界
オルダス・ハクスリー
大森望 訳 ¥800 ハヤカワepi文庫 978-4151200861 2017年
感情の統制というテーマでいえば、SFまずはこの古典。

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『ヴァイオレット・エヴァーガーデン ㊤』¥648 978-4907064433
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン ㊦』¥648 978-4907064440
暁佳奈
KAエスマ文庫 2015年
アニメのヒット作の原作。感情史の授業でアニメを学生がとりあげてくれて、いろいろ考えさせられました。
(※大学生協での取り扱いは各店舗にお問い合わせください)



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