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俺の役宅に聖火が安置されて半年が経った。

俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。

1792年、雲仙岳噴火に起因する大江戸五輪の1年間の延期が発表された。

ギリシアから喜望峰を回りインドシナ経由で運び込まれた「聖火」は、すでに江戸市中に在った。当時の航海速度では聖火の輸送に1年間以上を必要とするため五輪開催までに聖火を保管する役職が幕府内に設立された。それが「火神楽奉行」である。

火神楽奉行は江戸の三大奉行に並ぶ期間限定の奉行所である。火付盗賊改が昇格、兼任をすることになり長官長谷川平蔵の役宅が炎の保管場所に制定された。火神楽同心が寝ずの番に当たり半年間は何事もなく過ぎた。かに思われた。"彼ら"が行動を起こしたのは秋風が吹き込み冬へ至る季節であった。

「十蔵さん、冷えますね」
「……」
「いい加減きりあげてそば食いましょう!そば!」
「……」
「やったぁ!」

二人組の見回り同心、よくしゃべる小太りの男とむっつりと押し黙った男が品川大木戸へ差し掛かる。当時、江戸の境界線の南端であるこの土地は民家もまばらで倉庫街となっている。はじまりは小火であった。一軒の蔵から煙が上がり、それを小太りの男が踏み消した。それで終わりのはずだった。だが、不思議なことに炎は踏まれても消えず、踏みつぶしても水をぶっかけても聖なる光により火勢が蘇る。

最初に踏み消そうとした男の草履に火が付き慌てた男が脱ぎ捨てた草履から材木問屋の倉庫に火が付いた。そこからはあっという間だった。炎風が人を舐めると人間が薪と化した。逃げ惑う人々は次々と炎の感染を炸裂させる。小さな煙は巨大化して手に負えぬ火勢となった。まさに無敵であった。炎は品川を飲み込み北上を開始した。

「十蔵さん、俺はもうダメです。親方にこの事態を……!」
「……うさぎ!」
「へへ、初めて返事してくれました……ね……」

十蔵は走る。辻番所へ駆け込み馬を借りると役宅へ向け走り出した。長官へ伝えねばならぬ。聖なる不審火、おそらくは盗まれた聖火が火元であると。

近代五輪の父、宮本武蔵が提唱する『五輪憲章』では「戦国時代は終わり、武力は平和のために用いるべしと」と宣言されている。その五輪憲章を憎み、戦国をよみがえらせようとする勢力が存在する。

「"灰神楽"が動き出したか。火事と喧嘩は江戸の華、なんてかわいいもんじゃねえ。やつらは江戸を灰にするつもりだ」
「……長官!」
「地下牢の犬養を呼べ!!総力戦だ!!」

【灰神楽】#1 おわり。 #2へつづく

これはなんですか?

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