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【餅】逆噴射プラクティス&自作創作物のまとめ

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自作の創作佛のまとめです。 逆噴射プラクティス参加作品とZINE的なヤツや一次創作、二次創作、Webサービス及び名状しがたい何かを収蔵します。
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#短編小説

『IN WHITCH』

 午前七時五十分。リビングでコーヒーを淹れていると、妻がやっと寝室から這い出してきた。相変わらずの凄まじい寝ぐせで、90度真横に傾いた首を本数の定かではない指先で支えながらヨロヨロと食卓にたどり着く。 「おはよう」 「ふゎあ~よう」  妻は朝に弱い。学生時代からそうだったというがキャンパスではそのようなそぶりを一度も見せたことのない「優等生」だった。凛とした立ち姿と知性的なブルーグリーンの黒髪に魅入られた俺の奮闘はライフログをあたってくれ。 「WITCH、バタートースト

スレイトオブなんか(ネオ田無区港湾地帯)

ギギギギン!! 異形左腕をかざして銃弾から身を守る巨漢! 「怪我はないか!お嬢ちゃん!」 「はい!」 彼は銃弾をものともしない鋼鉄HDDクラッシャー義腕を振りかぶり、CRUSH!! 銃手(ガンナー)をアサルトライフルごとスクラップに変えた。 「おじさま、賊を追いますよ!」 足止め要員を残して逃走した奪取者(ランナー)の車両には未消去HDD入りのアタッシェケースが積み込まれている。情報流出時の予想被害額は測定不能!!情報管理部の二人は路上の赤いオープンカーへ駆け込み……

「ブロッコリーが毎食30日連続で続いた朝」 #同じテーマで小説を書こう

さっき企画に気づいたので20分タイムアタックでテキストライブしました。 「ブロッコリーが毎食30日連続で続いた朝」政府の緊急事態宣言から二週間が過ぎ、不要不急の買い出しは控えめになり食生活がワンパターンになってきた。特に生鮮食品、野菜のたぐいの入手や保管に気を遣うようになり主力は「冷凍ブロッコリー」になりつつあった。 冷凍ブロッコリーは無敵の冷凍野菜だ。食べ応えがあり、オイルやスープとの相性が良い。一部のベジタリアンはブロッコリーをこねてブロッコリーライスにする人々もいる

スレイトオブなんか(エスペラサ王国山間地方)

旅の途中、《毅然なる主人公の騎士》アヤト一行は何の変哲もない山村、蛇含村を訪れる。行方不明者が続出しているという噂があり近隣に不安が広がっていることを見過ごせないとアヤトが言い出したからだ。 「俺は領主の息子《生贄にされないように男装させられている領主の娘》エリックだぜ、この村には何もないぜ」 《主人公の親友ポジションだが実は生き別れた妹が敵国で暮らしているため仕方なく間諜を働きながらいつか妹を救い出して誰も知らない国で二人で暮らしたいが思い果たせず主人公の手にかかり秘め

スレイトオブなんか(ネオ田無区のコンビニ)

「マイセン」 コンビニへ入店した男は、店員にそれだけを伝える。 「?」 東南アジア系の店員はどこか不思議な顔でトレンチコートの男を見つめている。 「略称じゃわからねえか、マイルドセブンひとつ」 「マイルドセブン?」 何かがおかしい。さしもの男も空気を読みレジ周辺に視線を走らせる。タバコ棚に振られた番号、これを伝えればよさそうだ。 「タバコデスカ?」 「ああ、そうなんだ、マイルドセブン、えっと何番だ」 (マイセン、マイセン、何処だ……) 「次ノカタードウゾー」 微動だにせずタバ

スレイトオブなんか(品川区大井町駅)

「ふぅ」ため息をつき少年は大井町駅ホームで電車の到着を待つ。ラッシュアワーの京浜東北線が到着すると扉を押し開けて高密度のサラリーマンの群衆が吐き出された。我先にと東急大井町駅へ接続するエスカレータへ殺到するサラリーマンたちは少年を突き飛ばしてしまう。身長約150cm、体重45kg。同年代に比べるとやや小柄な少年はふらふらとへたり込む。「俺なんて俺なんて……」少年がつぶやきながら立ち上がろうと片膝を立てる。この時、少年はすでに身長300cm、体重200kgまで巨大化している。サ

【小説】『見せ金』

「この6億円が100万円になるということか」 「そういうことです」 俺の不審げな表情を察して大井町の路上で話しかけて来たスーツの男は説明を続ける。 「ご存じかと思いますがインターネットで現金をばらまくと称してツイートを募る金持ちアカウント、あれはほとんどが詐欺師です」 「知ってる。でも、あのアパレル社長はホンモノだろ?」 「どうでしょう? それはともかく詐欺師が増殖するにつれて手口の画一化が問題になってきました。誰もかれも同じ札束の画像を見せつけるので詐欺の手口だとバ

怪談『箪笥(たんす)/WALK IN THE CLOSET』

あるところにとても腕の良い伊右衛門という家具職人が居た。彼は「家物」という屋号を掲げ、計測具を使用してもいないのに寸分たがわぬ寸法で家具を作り続ける腕前でよく知られていた。伊右衛門は家具が作り続けられればそれで良く己が食う分以上には代金を要求しないということで評判になり門前には注文する人々が山のように押し寄せていた。 特に評判となっていたのは桐箪笥で水も漏らさぬその精度は「抽斗で金魚が飼える」と云われる程の代物であった。 トントン カンカン 受注生産の箪笥の126棹目が

『HDD"処刑人"の帰還』

平成三十一年冬。神奈川県で重大インシデントが発生。廃棄HDDの転売により官公庁秘匿情報が闇へ流出したのだ。 あらましはこうだ。官公庁が契約したリース業者から廃棄されたハードディスクがデータを物理破壊されることなくオークションへ転売されそれにデータ復元ソフトを使用することでデータの未抹消が明らかになったのである。 この事件は氷山の一角であると誰もが理解していたが火種を広げることを恐れ口に出すことはなかった。だが、もはや守秘義務を結んだ廃棄業者であっても信用することはできない

逆噴射小説大賞2019 二次選考を通過しました/『牧竜』世界について

よく来たな。お望月さんだよ。 逆噴射小説大賞2019の第一次、第二次選考の結果が発表され、私は1作品を通過させることができた。最終審査は1月発表となるそうだが、生存している作品はどれも粒ぞろいなので競争は苛烈なことになるだろう。 第二次選考通過作品『牧竜』通過理由について考える『牧竜』はどちらかといえば静かな展開の作品だが物語の「言外に漂うエピソードの匂い」をソーイチローが拾ってくれたのだと思う。私の作風はどちらかといえば奇想でドライブをかけていくタイプが多く、皆様にご迷

『求む!世界最強のたまごかけごはんの作り方』 3杯目

両開きの扉が押し開けられる。びょうびょうと砂混じりの風が吹き込み居並ぶ悪漢達がジョッキを手で押さえながら侵入するシルエットを睨む。 フード付き防塵コートの背に大剣を吊るした大男が金属音を鳴らしながらバーカウンターへ歩み寄り防塵フードと防塵バイザーを外して苦み走った表情のマスターと視線を交わす。「アイスミルク、それと先輩方にはジョッキのお代わりを」淀みなく注文を終え竜鱗を加工したコインを放り投げた。 悪漢達は胸をなで降ろし新顔を歓迎する。「竜を斬ったか!」「こいつはドレエレ

『牧竜』 四

【壱/弐/惨/四/伍】 (これまでのあらすじ) フリーの牧羊家キナは武家大名の「名誉の戦い」のために雇われ誉国の森林地帯へ赴いた。護衛の侍、忍者、は飛竜に殺された。大名とキナは生存のための戦いを強いられる。 登場人物 キナ:フリーの牧羊家(生存) 麿:誉国の武家大名(生存) 仙衛門:護衛の上級侍(死亡) 甚五郎:護衛の上級忍者(死亡) 小姓:2名(これから死亡) グエー!! 荷運びのラマが殺された。飛竜は面白半分に死体を放り上げて獲物を誇示している。 グオワアアン

『通勤中に読む本が尽きると死ぬ男 vs 京浜東北線』

ま・ず・い!今日は仏滅か!? まさか2冊目の文庫本を忘れるとは! 完全に油断した。京浜東北線がまさかの車両トラブル。 「大井町駅でのお客様同士の乱闘を鎮圧するため駅長が参戦したためしばらく運行を見合わせます」 なんだよそれ!手元の文庫本の残りは30ページ弱。あと10分もかからずに品川へ到着するはずだった。 事件解決。読了。余韻を残して下車。 素晴らしい朝の始まりになるはずだったのに……。 状況を整理しよう。 俺は通勤中に読む本がなくなると窒息して死ぬ男だ。移動時間の

『牧竜』惨

【壱/弐/惨/四/伍】 (これまでのあらすじ) 誉国の街道で妖怪を蹴散らした一行は無人の屋敷で休息を取り結束を固め、いよいよ狩場である森林地帯へ進出した。 登場人物 キナ:フリーの牧羊家 麿:誉国の武家大名 仙衛門:護衛の上級侍 甚五郎:護衛の上級忍者 小姓:2名 誉国のシンボルである火山【昇山】は正三角形に近い均整の取れた独立峰である。かつての噴火によって流れ出した溶岩と地熱により周辺地域は樹海を形成しており、私たちが目指す飛竜の生息地はこの一角に存在する。 「この