ナガノのようになりたかったのかもしれない

激鬱極まりない小春日和のこの頃。俺は毎日悩んでいた。悩むことがきっと趣味なのだから仕方ないのかもしれない。
自分の人生に関係のないアルバイトに月160時間over費やしていて、休みの日はしっかりと休んでいる。気づけば意味の無いフリーターになっていた。とりあえずなんでもいいから仕事をしなければと思って、1年半が経ったのだ。そして気づけばもうすぐで30歳。こんな人生なのによくもまあ自殺もせず生きてるもんである。
そして昨日の夜、バイト中にいきなりクソデカ天啓が降りてきた。俺はきっと、ナガノのようになりたかった。

ナガノといえば今もう知らない人はいないくらいの勢いである「ちいかわ」の生みの親。そのキャラクターデザインは素晴らしくて、ほどよくラフで洒脱なタッチに心奪われる。
本当に楽しんで描いているというのが伝わる。

俺とナガノの出会いはいつだっただろう。まだちいかわが始まる前だろうか。LINEモバイルのCMで、自分ツッコミくまと本田翼が踊っているのを見て、かわいいキャラだなと思った。
それから数年して、ちいかわで爆発的ヒットを遂げた。独特なタッチから、自分ツッコミくまの作者だと俺はわかった。
こぐまのケーキ屋さん、100日後に死ぬワニなど、Twitterでかわいいキャラのマンガは定期的に流行るが、そんなブームにとどまらないほどの爆発的な人気を博しつづけている。
しばらく、俺はちいかわアンチだった。俺はマイノリティなので、大人気のものにはとりあえず目を背けてしまう。その性格がこの人生を最悪たらしめているのかもしれない。
しかし、やはり人気でかわいいキャラなので、いい加減読んでみようかといった気持ちになったのが去年の夏頃だったか。あまりに人気すぎて、老若男女に受け入れられすぎてて、気になった。
読んでみて、特段なにか衝撃があったわけではないが、ゆるく読めてかわいい絵柄なので、これは毎日楽しんでしまうなと思った。
一見可愛いだけのように見えて毒があるから、大人でも楽しんでしまう。と言うかそもそもナガノは子供向けに描いてる訳ではないというスタンスを今現在においても感じる。
日々更新されるちいかわのふきだしには漢字が使われていて、ふりがなは振られていない。不定期のような更新頻度。世界観だってよくわからなくて、現実世界にあるようなお菓子や飲食店が出てきたり、ファンタジーの世界になったりとバラバラ。キャラ優先で、ナガノ自身が楽しんで描いているなというのが見えてくる。
そんなちいかわを見ていると、昔の自分を思い出した。小学生低学年の頃、俺は毎日マンガを描いていた。学校はクソつまんなくて、帰宅してマンガを描くことだけが楽しみだった。
紙という紙をほしがり、チラシの裏が白紙であれば奪い、ひとまずなにか描いていた。
その頃、将来の夢はマンガ家だった。いや、弁護士になりたかった頃もあった。なんにせよ、絵を描くのは楽しくて毎日やっていた。
その頃の絵はいまでも取ってある。自分の原体験というか、初期衝動のようなものに感じて、捨てられない。
絵を描く楽しさを知っていたから、ナガノに嫉妬してしまう。ナガノは楽しんで描いている。

俺は苦しくなって描かなくなってしまった。小学生高学年になってもマンガは描いていたが、ハマるマンガが少年マンガになっていくと、その難しいタッチを描くのが大変になっていった。
中学生に上がると夢を見失ったようにオタク化した。萌えグッズを集めた。それが中学生活を生き抜く生存戦略だった。そうすることで話し合えるやつが出来た。心の中ではマンガ家になりたいと強く思っていたが、行動はただの弱いオタクだった。もちろん絵は描いていた。
高校は県の底辺私立校に入学。美術科のある高校で、進路は美大入学を奨めるようなところだった。
高校1年生、一学期の成績が最悪だった。五教科ではなくデッサンのほう。
留年するよと言われた。
今まで、絵が得意で、褒められて生きてきて、それだけが生きがいだった。どこかで無敵だと思っていた。でもそこで初めて現実を知った。俺は絵が下手だった。
補講を受けてなんとか留年は免れた。その後はデッサンにも注力して、留年ギリになるようなことはなかった。
この頃、少年マンガを集英社の新人賞に2度投稿した。結果は惨敗。そこできっと少年マンガ家になることの諦めはついた気がする。
そして5流の美大に進んだ。金を出せば誰でも入れるような美大。
そんなふうに、環境としては絵の世界で生きてきて、気づけば油絵を描いていた。その頃もマンガ家になりたいという気持ちがあったり、バンドがしたかったり、もう気持ちがめちゃくちゃだった。
つげ義春のような、暗いタッチで描きたいと思っていた。
そして、かなり端折るが、大学を中退し、どんどん絵を描かなくなり、30歳になろうとしている。
歳というのもあるのだろうか。誰からも愛されるキャラのようなものを描きたくなっていた。それは小学生低学年の頃に描いていたもののような、絵を描きたいと思っていた。
ナガノはまさに、俺の小二の頃のまんまなんだよ。今の俺の理想を現実にしてるのはナガノなんだよ。もう一度、あの頃のような気持ちで絵が描きたい。俺にできるだろうか。 
きっとナガノも苦しいと思う。プレッシャーは凄まじいだろう。マンガの更新は不定期だが、商品化などの仕事としてのイラストは毎日描いてるだろう。
でも、俺はそうなりたかったんだった。小さい頃、ぼんやりと憧れた、椅子に座って作業をしてるマンガ家の先生。

ナガノさん。俺も、少し描いてみようと思うよ。

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