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誰かの人生のドラマ - ubies 庄野裕晃のコラム

言葉の壁は大きく、才能があっても海外で活躍するクリエイターは限定的だ。しかし語学に長けたクリエイターが、必ずしも国を越えて仕事ができているわけではない。越境しチャンスを得るためには、他に何か大切なことがありそうだ。

若手絵本作家の鹿島孝一郎さんは、インドネシアのグラフィックデザイン領域における第一人者 Ignatius Hermawan Tanzil さんに見出され、彼が運営するアートスペース"Dia.Lo.Gue"で開催された”Ruka Rupa Rasa”展に出店作家としての招待を受けた。Instagramで鹿島さんの作品を見たインドネシアの若い人たちが押し寄せ、イベントのあった3日間で1000アカウントにも及ぶフォロワーを獲得し、作品やグッズもほぼ完売するなど、大盛況だった。ファンタジックで多彩なキャラクターたち、緻密で繊細に描く技術と日本独特のアニメーションのような世界観は、インドネシアの人々には見慣れぬもので大きな魅力を感じるそうだ。

バンコクを拠点とするイラストレーターのNut Daoさんは、イラストレーターのエージェントを20年以上続けてきた私が、売れるに違いないと惚れ込んで日本に紹介した一人だ。どこかユーモラスで、簡素ながらインフォグラフィックのように巧妙に設計されたイラストは、日本のシンプルな線画イラストのブームにフィットするという読みだった。現在、Nutさんは航空会社Peachのオフィシャルイラストレーターに抜擢された他、東京メトロ、SONY、旭化成などのイラストを手がけ、引く手数多の状況が続いている。

イラストレーター兼マンガ家の秋元机さんは、ほぼ日マンガ大賞を受賞するなど業界内で高い評価を得ているが、その真価はアジアでも発揮されている。中国深センで開催された個展 "EXOTIC BAZZAR"では、入場制限がかかるほど長蛇の列ができ、作品やグッズが売れに売れ、最後には売れるものがひとつもなくなってしまうほどの人気振りだった。

その個展をプロデュースしたのは、中国深センで様々なアートイベントを手がける、Shenzhen FringeのEric Zhuさんだ。自身が審査員を務める国際アートフェア"UNKNOWN ASIA"で秋元さんを選出し、個展開催はその副賞だった。Ericさんが秋元さんを選んだ理由として、「段ボールを再利用してつくるレコードジャケット作品は、懐かしくて味わい深く、環境問題に関心を持ち日本の漫画や音楽などををネットで見聴きし育った中国のミレニアルズ、Z世代から人気が出ると確信があった。」と語ってくれた。

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photo by Shenzhen Fan

この3名のクリエイターが海外で評価された例に共通するのは、エージェントの資質を持つ人との出会いがあったことだ。

その資質とは、作品やクリエイターの価値を深く理解している、越境先の時代背景やカルチャー、人々の気質や感性を熟知している、それらをつなぎ合わせて編集することができる、そして、"誰かの人生のドラマに貢献する"ことを喜びと感じられるなどが該当するだろう。

昨年、Luluさんがグランプリとなって幕を下ろしたクリエイティブトーナメント"ubisum by ubies"では、アジア各地のクリエイティブ界における実力者100名がメンターとなり、それぞれが大会にエントリーしたクリエイターを選抜指名し、共にグランプリを目指した。なぜそんな構造にしたかと言えば、やはり"見出したい人"と"見出されたい人"が出会う仕組みを作れないかとの思いがあったからだ。

自らの作品や表現が受け入れられるのは、今いる場所だとは限らない。ubiesはその場所を探し当て、あなたの人生をよりドラマチックにするための存在を、今後も目指していきたい。


📩 このコンテンツは、10月20日配信の ubies Newsletter vol.4 に掲載されたものです。

Cover photo by JK on Unsplash

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