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アジア5ヶ国のクリエイティブカルチャーを振り返る Looking Back 2021 - タイ編 Tik Santi Lawrachawee

Looking Back 2021 は、アジアのクリエイティブカルチャーやマーケティングの最新の動向について、月イチで配信するubies Newsletterの年末特別企画。ubies Alliance Membersそれぞれの視点で、自国の2021年を振り返っていただきます。第三弾は、タイ代表Tik Santi Lawrachawee

2021年12月 - 2021年を振り返る 

パンデミック渦中で花ひらく創造性のスペース

2020年初め、タイのクリエイティブ産業は新型コロナウイルスの大流行で困難に直面しているように見えた。雇用は激減し、イベントや展示は延期、またはキャンセルになった。教育は完全にオンラインに移行した。学校や大学には人がいなくなり閉鎖となった。そこにはクリエイティブな機関も含まれた。一時的に休止したところもあったが、完全に閉鎖したところも多かった。

私自身はこのパンデミック中に、グループ展と個展を合わせて4度、展示をする機会があった。感染者数がそこまで増加していなかったために開催が可能となった展示もあった。政府の方針の発表によって、開けたり閉めたりしながらなんとか開催や、入場者数を制限しての場合もあった。個人的に、私は今年起こった様々なアートやデザイン関係の動きを追ってみることに興味がある。それぞれのイベントがどう運営されたのかを知ることも勉強になるし、勇気づけられる。特に一年が終わろうとしている今、タイの状況はだいぶ緩和され、様々な活動が盛んに行われるようになってきている。 

この大変な時期に、興味を惹かれたことがある。パンデミックの最中にもかかわらず、多くの新しいスペースがオープンしたのだ。ここでは、ubies Newsletter読者の皆様に年末年始のご挨拶も兼ねて、これらのスペースをご紹介したいと思う。

私がおすすめしたいのは、次の5つだ。

 

HOP: Hub of Photography
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HOPは、異なる分野のフォトグラファー3人が集い、"写真を愛する人々"のためのコミュニティが生まれるスペースを創るという目的でオープンした。タイのフォトグラファーの可能性を伸ばし、グローバルな舞台で活躍するために何かサポートできたらとも考えているそうだ。フォトグラファーたちが集まるこのスペースは、写真を始めたばかりの人にもフレンドリーだ。Hub of Photographyは展示をするためだけのスペースではない。他にもフォトグラファーや写真が好きな人たちの様々なニーズに対応しており、フォトグラファーの作品や、アイディアの展開をサポートしている。設立メンバーたちはどんなギャラリーにしたいか、そこでどんなことが起きてほしいか話し合いを続け、最終的に現在の5つのアクティビティゾーンがあるHOPが出来上がった。

"HOP PHOTO GALLERY"はメインの展示場で様々な作品を常に入れ替わりで展示している。"WHOOP!"はギャラリーで、一般の人でも展示ができるようになっている。すべての人に開かれたスペースにしたいという思いからだ。"FOTO INFO Learning Center"はスタジオで、誰でも写真撮影をやってみることができる。FOTO INFOチームが機材の扱い方や撮影テクニックを教えてくれる。商品撮影も可能で、多様な照明が用意できる。"HOP Club"はライブラリー、ショップ、アーティストの本の販売所を兼ねている。"Common Space"は教育的なイベントや撮影機材の展示のスペースだ。

 

Doc Club & Pub.
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元々はドキュメンタリー映画を海外から輸入する会社で、ドキュメンタリーや前衛的な映画の上映会を何年も開催してきたDocumentary Clubが最近オープンしたのがDoc Club & Pubだ。多くの映画館が休館していた中で、カフェ風のこのシネマはたまたま映画を上映しているだけだという装いを呈したり、オンラインで映画を提供した。小さなスペースだが、単なる映画館ではなく、映画愛好家を幸せにする場所だ。だが、カフェや小さなバーもちゃんとある。座ってリラックスして、コーヒーを飲んだり美味しいご飯を味わいながら、映画やアート作品鑑賞や読書を楽しめるスペースだ。 

 

XSpace
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バンコク、プラカノン・エリアの路地をずっと奥まで辿っていったところに7階建ての空っぽのコンクリートの建物があった。この建物を改装してできたのが、誰にでも開かれたデザインのためのスペースと、質の高いアートを展示するギャラリーだ。このスペースをつくったのは家具ブランドの"Wurkon"。アーティストやデザイナーと同じ言葉をしゃべるブランドになりたいという思いから、デザインとアートと同じスペースに家具が展示されているショールームを生み出した。そのため、スペースの名前は"X"、またはクロスマークで始まっている。交差と収束の象徴だ。建物には大きく分けて2つの機能がある。半分がギャラリーになったショールームと、様々なアーティストの作品を入れ替わりで展示するオープンスペースだ。ショールームではアートと家具が同等な重要性を持って展示されている。近くの別の建物にはもういくつかギャラリーがある。講座やワークショップを行う部屋も準備されている。

 

Central The Original Store
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バンコクのソイ・チャロエンクラン38の入口にある築100年の5階建てのビルが、Central Groupの最初の店があった場所だ。Centralは今やタイ最大の小売統括企業となった。この建物が大々的に改装されてできたのが"Central: The Original Store"だ。スペースは、昔のチャロエンクラン地区の歴史とCentralグループの歴史を近代的な文脈でとらえてデザインされている。3年間かけて改修したビルには現在、雑誌やヴィンテージ本を販売する書店や図書館、リテール・デジタルリサーチセンター、展示・イベントスペース、カフェ、ジャズバー、50年代のタイ料理を出すレストランなどが入っている。ベルギー人建築家のヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンが、もともとのビルの構造を活かし、地域のCentralの歴史の解釈をテーマに考案した近代的なデザインだ。メインのビルに敷かれたランパーンで手仕事でつくられた伝統的な陶磁器のタイルは、初期のCentral Chidlomデパートの店舗のタイルの床を思い起こさせる。道路に面したフロント部分は床から天井までガラス張りになっている。


Jim Thompson Art Center
Website 
バンコクのジム・トンプソン・アート・センター(JTAC)は、3年間に渡る新しいビルの建設と隣接するジム・トンプソン・ハウス・ミュージアムの改修を終え、再オープンした。新しいJTACは4階建てで広さは3000平方メーター。バンコクの建築・デザインスタジオDesign Quoによるデザインで、2つの展示ギャラリーと機能的な屋上スペース、ライブラリー、カフェ、ミュージアムショップがある。新しいスペースは、もっと多くの公開講座やパフォーマンス、講座、ショー、ワークショップなどのアクティビティを開催できるようにデザインされている。

 

これらのクリエイティブなスペース(もちろん、ここには書いていないものも、まだ私が知らないものもたくさんある)の出現は、困難な状況においても、タイのアート、デザイン、クリエイティブ業界は重要であり、新たな課題に直面しながらも前進し続けていることを象徴している。"創造性はいつでも花ひらく"のだ。

Tik Santi Lawrachawee ( Thailand )

📩 このコンテンツは、12月27日配信の ubies Newsletter vol.6.3 に掲載されたものです。

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