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アジア5ヶ国のクリエイティブカルチャーを振り返る Looking Back 2021 - 日本編 庄野裕晃

Looking Back 2021 は、アジアのクリエイティブカルチャーやマーケティングの最新の動向について、月イチで配信するubies Newsletterの年末特別企画。ubies Alliance Membersそれぞれの視点で、自国の2021年を振り返っていただきます。シリーズ最後となる第五弾は、ubies CEO 庄野裕晃

クリエイターオリエンテッドな世界


2021年は、あえて小さい規模で、やりたいことを自由にやっている人達から目が離せない年だった。その中から、国際アートフェアのUNKNOWN ASIAの運営を共にしてきた3名の、インディペンデントな活動を紹介したい。

私と一緒にUNKNOWN ASIAを立ち上げた谷口純弘さんは、長年勤めたラジオ局のFM802から独立後、ubiesでも活躍頂いているクリエイティブコーディネーターの笹貫淳子さんとタッグを組み、chignittaを立ち上げた。大阪のセントラルパークとも言うべき靱公園に面した場所に拠点を構え、アートギャラリーの他、谷口さんがコレクションしてきた膨大な数のレコードとアートブックが放出されたストア、そしてDJブースが併設されている。一人一人のクリエイターの願いをすべて叶えるため、濃度高く向き合い、それぞれ過去最高だったと思わせられる妙々たるエキシビジョンを続けているところが、他が真似のできない2人の凄みだ。

現在、UNKNOWN ASIAのプロデューサーを努める高橋亮さんは、TEZUKAYAMA GALLERYの岡田慎平さんと共に、大阪港にあるシーサイドスタジオCASOで”DELTA 2021”を開催。DELTAは次世代を担う30代前半の2人が、先鋭的で新しい感性を持つギャラリーやディレクターによるプレゼンテーションの場を大阪発でつくるべく、現代美術を取り扱うアートフェアとして始まった。出展するギャラリーやアーティストを選ぶ基準を「独断と偏見」と言い切る、従来の慣習や価値観に捉われない2人からアート界の未来が見えてくるように感じている。

この6〜7年、UNKNOWN ASIAを始め”大規模”なアートフェアやアートプロジェクトの立ち上げ及び運営に携わる機会が多々あった。大規模であることは、認知、作品販売、仕事の獲得にスケールメリットをもたらし、その意義は大きい。”祭り”の高揚感から、セレンディピティ的な予期せぬ出会いを誘発しやすいことも魅力だ。一方で、「参加して人生が変わった」と言うクリエイターもいれば、「次はもう参加したくない」と言うクリエイターも当然いる。すべての参加者が満足する場をつくることは不可能に近く、規模が大きいことの弱みはこの点に集約される。主催者の顔が見えて熱量の高いchignittaやDELTAのような場が多く生まれ、分散が利いていくことで、クリエイターがより自らに合う選択肢を見つけられるようになることに希望を感じるのは、その反動もあるかもしれない。

今年の振り返りとしては、パンデミックがもたらした進化についても触れておきたい。人は必ずしもオフィスにいる必要がなくなり、好きな場所で仕事ができるようになった。クリエイターも同様で、好きな場所で創作を続けながら、自らの活動スタイルに合い、作品をより輝かせてくれるオンラインのプラットフォームやコミュニテイに参加することで、よき理解者とも言うべきファンと出会い、十分な収入を得る人が増えてくれればと強く思う。そして、新たな展開を感じさせる事例も散見された。

ロレアル・パリUSAが、新商品の発売に合わせて5名の女性クリエイターにNFTアートの制作を依頼し、OpenSeaでオークションを開催した。クリエイターは一次売上の100%を獲得し、二次市場では売上の50%が、地域社会に素晴らしい変化をもたらしている女性を表彰する”Women of Worth”に1年間寄付される。この取り組みは、NFT市場における女性クリエイターの割合が16%にも満たないことから、女性クリエイターの進出を支援することを目的としている。同社の慈善活動が原動力ではあるが、商品ターゲットである女性からの共感を集めると同時に、新商品の認知に見事につながっていることは見逃せない。

Web3の大きな追い風もあり、企業がよりクリエイターを尊重したPR戦略を練ったり、プラットフォームやコミュニティを設計する場面が増えていくことは、疑いようのない流れだ。chignittaやDELTAのような、クリエイターに寄り添った存在も影響を与え合い、ますます重要になるだろう。

クリエイターが自らの主観を解放し、好きな場所で、自由に作品をつくることで、この世界は新たな可能性に満ちていく。ubiesは、そんなクリエイターオリエンテッドな世界を目指し、2022年も挑んでいきたい。


📩 このコンテンツは、12月29日配信の ubies Newsletter vol.6.5 に掲載されたものです。

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