黒い子供

黒石の実家はリビングを囲む形で部屋が作られており、リビングに面した洗面所の鏡からは黒石の自室内を覗くことも出来る。

そして洗面所の鏡越しに「黒石」と「黒い子供」の初顔合わせがなされたのだ。
それは夜10時くらいの事だった。洗面所でボケーっとしながら、歯を磨いていると黒石の自室の入口、そこに立っている黒い子供の存在に気づいた。

見間違えかと思い視線を凝らしてみると、鏡越しに目が合った。黒石は反射的に自室の入口を目視したが、誰も何者も立っていなかった。勿論、鏡越しに黒い子供が立っているということもなかった。

──この時の黒石は不思議なこともあるものだ、と思い流していた。心霊体験なんて刺激的だなぁくらいの気持ちだった。

数年が経ち、ブラック企業に勤めながら一人暮らしをしていた時期、何度か実家に帰ることがあった。

実家に帰っていた理由は資料不足。
777の書やトートの書など、アパートへ持っていきたいが希少性や荷物の量的に難しい故に、実家に置いてきた書籍や個人的なレポートを取りに帰って来ていたのだ。

そして黒石は帰宅の度、本棚の前に体育座りで本を読んでいる様な体勢の黒い子供を、視界の端に視認することになった。

無害なら気にしないし、何より勉強好きな幽霊──黒い子供──というのが、黒石的には可愛く思っていたのだ。

ある日、黒石は家族旅行に誘われ、家族と共にクルマに乗る機会があった。

長い道のり故に段々と話題も尽きてきた頃、黒石は旅行中に話す話題ではないと思いつつも、黒い子供のことを話した。

洗面所の鏡越しでの対面から、本棚の前で読書する可愛いらしい姿まで──
家族は黙って最後まで聞いていたが、母親の言葉で黒石は肌寒いものを感じることとなった。

母親曰く黒石たちを産む前に流産したことがあり、水子供養しているとのことだった。

詳細は省くが私に如何なる用であれ、入れない筈の自室に入れる霊というは──つまり私の兄になる筈だった子供だったからだ。

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