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uijin 混沌をもたらす者

2022年11月16日はuijinの「2022(#BFF)」でO-EASTに行ってきた。

私が初めてuijinを観たのは、2019年7月5日に同じEASTで開催されたワンマンライブ「aim for the highest」だった。滅多にそんなことをしないのだが、当日券で入った。もしもあの時、EASTが完売していたらuijinと出会うこともなく、現在とは少し違う世界線でアイドルを観ていたのかもしれない。そうした感傷も念頭に置いて、16日はあの時のEASTと同じPA卓前付近でステージを観た。

ライブは謎のひとちゃんタイム(=ひとちびによるライブ直前のメンバーへのインタビュー動画)とウォーミングアップの5曲を皮切りに、実質的に「001」からスタートした。この曲から本格的に稼働した照明は、MAWA LOOP 2019(O-WEST)のtijinの時のように赤黒くダークな質感を伴っていて、観ていて懐かしくなった。照明担当が同じエンジニアだったのかもしれない。

ステージ自体は、前半は特に、約3年のブランクを感じずにはいられなかった。2020年1月5日のラストライブのパフォーマンスと比較したら、仕方のないことだが、メンバーのスキルレベルが落ちていたような印象だった。音も歌唱力との兼ね合いで控えめに出さざるを得ない…そう感じた。

しかし、後半に向かうにつれ、彼女たち4人は急ピッチで現役時代の勘を取り戻していった。初っ端の「001」とラス前の「001」を比較すると、全く別のグループかと思うほどに成熟した実演を魅せてくれ、私は「そんなことってあるんだ!」と思いながらステージを眺めていた。この日の楽曲では5回目の「セツナメモリアル」を経て披露された「コトノハエモーション」が最高に良かった。
ちなみに翌日、YouTubeにある2019年7月のEASTのライブ映像を確認したが、この日のライブ終盤は3年前とそん色のないパフォーマンスだったと思う。

復活したuijinのライブを観ていたら、彼女たちが不在にしていたこの3年間のことを考えずにはいられなかった。それはコロナ禍の影響でライブの見方が変わっていった期間のことだ。
ファンはフロアで暴れられない代わりに、パフォーマンスをじっくり見て演出の機微まで汲み取るようになった。そうした日々はこれまでにない客層を開拓し、アイドルのスキルを劇的に進化させ、ファンの目を肥やした。今や今回のuijinを超える歌とダンスの実力を持ち、より精緻で臨場感あふれる高品質な音を聴かせてくれるグループがそれこそ数多く存在する。ただ、それはあくまでステージ上のパフォーマンスだけを観て、フロアとともにライブを作るという考え方を除外した場合のことだ。

uijinの中心メンバー・ありぃくんはuijinが再結成された経緯と彼女自身の心情を2回のMCで丁寧に説明してくれた。一度解散したグループなので「終わりに向かって走る」魅せ方はできない。でもuijinにしかできない役割がある、と。
彼女たちの今後の活動のペースは分からない。どれだけ続けても、いつ辞めても構わない…そう覚悟しているように見えた。アイドルでありながら宿命である解散から解放された、いわば時を超えた存在であるとも解釈できて、素直に「面白い存在だな」と思った。

当然、uijinをプロデュースするsakebi陣営には戦略があると思う。おそらく彼らがuijinを使って成し遂げたいことは業界の再活性化だろう。それはありぃくんが何度も言っていた「リスク」というキーワードに集約される。
矢面に立ち批判を浴びる覚悟を持って、業界を、フロアを、コロナ禍前の混沌に戻して遊び場を取り戻す。その礎になるつもりなのだと受け取った。それはまさに確かな実績を持つ彼女たちと昨夏以来「ココヒロ」という活動を率先して進めてきたsakebi陣営(=ANTVOX)にしかできないことだ。
つまり、uijinがコロナ禍直前に解散したのは全くの偶然だが、このタイミングで戻ってきたのは意図的で勇気のある決断だと言える。そしてそこには、配下に複数のグループを抱えるsakebi陣営の冷静な計算もあるに違いない。

yosugalaからの献花(2022年11月16日撮影)

一方で、この日2回目の長尺MCで、ありぃくんは揺れる気持ちを吐露してくれた。uijinが結成当初の4人で再デビューしたからには、「前回はできなかったことをやりたい」と…。このMCでは演者としての欲と、3つのグループを受け持つプロデューサーといち演者という2つの役割を行き来するがゆえに生じる葛藤が見え隠れして非常に興味深かった。揺れ動く感情を抱えながら、彼女がこの先、どのような物語を紡いでいくのかには大いに期待したい。

そう、期待だ。

この日のEASTはuijinが魅せてくれるものに期待するファンでパンパンに膨れ上がっていた。それは2019年7月の「aim for the highest」でも、そしてこの3年間のどのアイドルグループのライブでも見られなかった光景だった。加えて、狭い範囲だが、ライブの感想を聞いたファンの誰もが、初見であれ往年のファンであれ、口々に「すごかった」、「楽しかった」と言っていた。コロナ禍前の混沌を渇望するファンが平日ど真ん中のEASTを即完させるほど数多くいること。そしてそこに集った個々のファンがuijinというブランドに大きな期待を寄せていることを、sakebi陣営は証明することができたと思う。

ここ最近、メジャーアイドルのようなフロアルールを背景として、ライブアイドル界の勢力図は均衡を保ちつつあった。クマリ、バンビ、白キャン、チュラ、デビアン、ネオジャポがワンマンのキャパを拡大しながら現在進行形でしのぎを削っている。
そうしたタイミングにuijinは颯爽と舞い戻り、この日のEASTで既存のどのグループも成し得なかった混沌復活の先鞭をつけた。今回のEASTのSOLD OUTと、その翌日に発表された2023年1月20日の新宿BLAZEでのほぼ何でもあり(マスク着用以外の義務を全面解除したフロアルール)のいわばsakebi内対バンで、これまでの3年間で培われた均衡が破れ勢力図が変わる気配が漂ってきた。その意味で、今回のEASTはまさに時代の転換点となるような重要なライブだったように思える。

2020年1月5日に解散したuijinは、約3年の時を経て、再びライブアイドル界をかき回しに戻ってきた。
この先、どのような物語を語り、彼女たち自身がどう進化して何を魅せてくれるのか。そして、sakebi陣営が作り出すメジャーに対するカウンターのようなステージとフロアは、コロナ禍を経た現代のライブアイドル界でどこまで受け入れられるのか。さらに、uijinが巻き起こすムーブメントを目にした他の陣営はどう動き、その結果が業界に何をもたらすのか…。

興味は尽きない。

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