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「plant」

2023年5月20日はクロスノエシスの4th anniversary one man live「plant」で恵比寿LIQUIDROOMに行ってきました。
同日をもって無期限で活動を休止するクロノスにとって最後となるライブ(※)でしたが、その事実に反するかのように、無限の可能性を感じる公演でした。
※ 以降、ライブ活動は行わないとのこと

ライブは「stable」からスタートし「翼より」へと展開していきました。静かで緊張感あふれる立ち上がりでした。
初っ端の「stable」のサビからエッヂの効いた音とバチバチの照明がステージを激しく染め上げ、「翼より」ではメンバーの動きに合わせて羽根のVJがステージ背面を彩る。チーム・クロノスの技術の粋を集めた演出を観て、否応なしに期待が高まります。

当日のセトリ(公式Twitterより)

この日印象に残った曲は2つあります。1つは「cross」です。
「ライブの楽しみ方をファンに委ねている」と公言するクロノスにあって、推しメンのFLAME(=ふらめ)さんが唯一ファンにお願いしているのが、この曲冒頭の各メンバーのダンスパートでクラップを打つこと。これは2ndワンマンの前日にブログで彼女が呼びかけ、その後定着した「お約束」です。
ラストライブとなったこの日も当然のようにクラップが巻き起こったのですが、満員のクロノス好きで埋め尽くされた会場で聴くクラップは、これまでで最高に一体感があって、しかも地鳴りのように大きく、胸にグッと迫ってくるほど感動的な音でした。

FLAMEさんのブログ(2020年12月3日)より

また、この日の「cross」、AMEBAさんの目力とセリフは絶妙にキレていて、5人が右手で印を作りながら円形に動くシーンは高密度にまとまって綺麗で、その直後のユニゾンは怒涛のような迫力がありました。
この「cross」はお披露目の頃からあるそうです。クロノスの代名詞とでも形容すべき曲で、それこそライブハウスで何十回と観てきた曲ですが、最後になって改めて、展開の妙が生み出す耳を惹くフレッシュさとシーンに応じて異なる表情を見せる奥深さを感じました。

当日のFLAMEさん①

「devotion」は個人的に思い入れの深い曲です。それは私がふらめさんの歌い出しで跳ぶからです。この日の終演後の特典会で、ふらめさんはこう言っていました。

「devotionでシウマイのこと探しちゃった。探さなくても見つけたけど。」
と。

私はこの日、SSエリアの最後尾である4列目の下手寄りにいました。3列目を選ぶこともできたのですが、4列目を取るとSSエリアとSエリアの境界にあるプラ柵を掴んで跳ぶことができたので、迷わずここを選びました。
そのおかげもあって、このジャンプで彼女に見つけてもらえたようです。そして私も見つけてもらったことに気がつきました。その後真っ直ぐに届いたアレは、彼女なりのレスだったのでしょう。
アイドル現場で通称「マサイ」と呼ばれる連続ジャンプの意義の一つは、推しメンにフロアにいる自分を見つけてもらうことだと思います。
その意味で、正しいマサイの使い方でしたが、それに加えて、ラストライブでふらめさんに「探した」と言われるほどに、このジャンプが彼女の中に定着していたというのは感慨深いことでした(ちなみに、クロノスで跳ぶ人は希少種です)。

当然ながら、メンバーにとって、どの曲もこの日が披露する最後の機会となります。私はふらめさんを中心にラストライブを観ていましたが、序盤、彼女は意図的に没入しているかのような気合いに満ちた表情と動きでフロアを魅了してくれました。1曲1曲を噛みしめるように、いつもより瞬間瞬間を丁寧に演じていたのがひしひしと伝わってきました。
しかし、中盤の「デザイン」の頃には良い意味で緊張がほぐれてきたようです。パフォーマンスが自然体になっていたように感じました。この曲では、アイドル現場では滅多に見ることのない横殴りのムービングライトと、ふらめさんの表情との調和も素敵でした。

当日のFLAMEさん②

「awake」で会場を盛り上げ、メンバーがいったん舞台袖に捌けた後、、、黒を基調とした新衣装に着替えて披露されたのは最新アルバム『moment』で唯一未披露だった楽曲「gone」でした。この「gone」こそ、ラストライブ「plant」で非常に印象に残ったもう1つの楽曲です。

この曲はアルバムの中でもこれまでのクロノスの歴史の中でも極めて異質。エスニックな音色と、死後の世界をも想起させる宗教的な世界観が特徴です。
先日4月29日に月見ル君想フで開催された最後の定期公演の特典会で、ふらめさんに「(goneはまだライブで観てないので、アルバムを聴くときに)goneを飛ばして聴いている」と言うと、「聴いた方がいいよ」とアドバイスされました。
その反応で「ラストライブで初披露するつもりだな」と悟りましたが、実物を目撃して、温存されていた理由が分かったような気がしました。
黒基調の衣装、広く奥行きのあるステージ、尖った音響、雅やかな照明、金色に煌めくVJ、そしてラストライブという文脈。全ての条件が整うことで、音源そのものが持つポテンシャルを遥かに超えて、強烈な輝きを放っていました。
パフォーマンス面でも、円状からはじまって横に展開する意味深な陣形を含めて、時間と空間を超越した一歩離れた位置からクロノスの世界を俯瞰しているようで、、、かつ葬送の場(=ラストライブ)という建て付けも相まって、鮮やかにそして激しく胸を突き刺してきました。見事でした。

プロデューサーのsayshine氏

各メンバーがファンに別れを告げる長いMCの後、クロスノエシス最後の1曲として披露されたのは「lost moment」でした。
この曲ではメンバー全員が随分と力が抜けた状態に見えて、かつ途中までは白色灯だけの通常の対バンのようなシンプルな演出でしたが、終盤では(初期に脱退したメンバーを含めて)これまでの軌跡がVJに映し出され、一気にエモ味を感じました。

「lost moment」の実演が終わると、メンバーが一人ずつ舞台袖へと捌けていきました。ピンスポットを受けながらステージに一輪の白い花を置いた後で。。。
敢えてでしょう。お辞儀をせずに背筋を伸ばしたまま捌けていったので、その凛とした所作が鮮明に記憶に残っています。「行かないで欲しい」という切なる願いも虚しく、ふらめさんは2番目に退場していきました。彼女はこれをもってアイドル活動を引退するとのこと。もう表舞台に立つつもりもないようです。
そんな彼女がラストライブで選んだ髪型は、トレードマークである高めのツインテールでした。

当日のFLAMEさん③
(新衣装の後ろ姿)

この日、クロスノエシスは3回目のLIQUIDROOMでのワンマンでした。

事実上の解散という事情もあったと思います。クロスノエシスは3回目のLIQUIDROOMで、用意した座席を全て売り切りました。小耳にはさんだところによると、最速先行で売り切ったSS席の抽選倍率は5倍だったそうです。当日は多くの人で賑わっていて、たくさんのアイドルも駆け付けたようです。

終演後に発売された集合チェキ

「ダークポップダンスアイドルユニット」を標榜するクロスノエシスの特徴は、そのキャッチフレーズの通り、死や終わりをテーマとしたダークポップな楽曲を、高度なダンススキルを交えて歌うというもの。
特に、彼女たちの到達点である最新アルバム『moment』では、通常は一つのパートとして処理されるようなフレーズを細かく歌い継ぎ、ファルセットによるユニゾンを見せるなど、高度な歌唱技術に挑戦しています。
ダンス面でも、片足をもう片方の足に掛けて左右逆方向に回転する、綺麗な直列を組んだままで素早く舞台を駆けるなどの膨大な鍛錬を必要とする動きを見せていました。
しかも、(「gone」以外の)どの曲も初めて披露された時に比べると、ラストライブではかなり洗練されていたと思います。もし、次の楽曲を出す機会があったとしたら、今回のアルバムで培った技術の上に、さらに新たな何かを積み上げていたことでしょう。

折に触れて、ふらめさんはクロノスの楽曲が好きだと言っていました。自分たちの楽曲が好きだと公言するアイドルは実は多くありません。
一方で、楽曲の射角が狭いせいか、対バン等の集客面では必ずしも思い描いた通りには行かなかったようです。
集客対策として、フロア受けを狙って沸き曲を入れるなど楽曲の方向性を変える選択肢もあったと思います。そうすることで、もしかしたらグループの寿命は少し伸びていたのかもしれません。

それにも関わらずその選択肢を採らずに、最後まで自分たちが追い求めるダークポップという軸とステージに対する愚直なまでの誠実さを貫きながら、クロノスは界隈にひとつの存在感を示し続けました。
そしてその状態のまま、最後は多くの人に惜しまれつつLIQUIDROOMを完売させ、美しくライブ活動を終えていました。採算面については分かりませんが、確かな爪痕を残したという意味でクロスノエシスというプロジェクトは成功裡に幕を閉じたと言えるでしょう。

ステージに置かれた一輪の花(公式Twitterより)

ただ、もう彼女たちのパフォーマンスを観ることができないのは、ファンとしては寂しい限りです。
お披露目からある「cross」に新たな魅力を感じたこと、そして新境地を開拓した「gone」は目撃したファンに絶大なインパクトを与えました。最高傑作である「Gravity」等、その他の曲に関しても最後の瞬間までパフォーマンスや演出が成長していたので、ラストライブを観終わった後でも無限の可能性を感じることができました。

できればLIQUIDROOMのループを抜け出した先の世界を一緒に歩んでみたかった。。。というのが率直な思いです。

終演後に発売されたソロチェキ

そして何より、これまで培われてきたメンバーの技術が、この日以降全て失われてしまったのは本当に残念でなりません。

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