ぼくたちはお茶の先生になりたい!

 茶の湯の歴史は意外に深く,人類が言葉を用いる前より,非言語コミュニケーションとして存在していました。
 あなたの曽々々々々々々々………おじいちゃんのゴリラと,曽々々々々々々々々々々々々々………おばあちゃんのチンパンジーも茶の湯を嗜んでいたのは,なんだか親近感が持てますよね。
 いまや我々の生活に欠かすことのできない茶の湯に対する理解を,この機会に深めていきましょう!

【入門級】 大きな声であいさつをしよう

 茶の湯ではコミュニケーションが重視されます。
挨拶はコミュニケーションの基本なので,バカでかい声であいさつをしましょう!
茶の湯を好む人間は元気であることが大好きなので,茶の湯初心者や,茶の湯に苦手意識のある人にとってはバカなんじゃないかと思う声量がちょうどいいくらいです。
 茶の湯はバカでもできる,バカにやさしい,バカしかいない芸道なので,誰かの真似をせずとも我先にと大路を走るような気概が大切になります。

【習事級】 お天気の話でもしよう

 茶の湯のスタンダードな会話はお天気の話です。
「毎日毎日天気の話をしやがって。てめえの家にはテレビがねえのか。スマホにお天気アプリ入ってるだろうが。」などと思ってはいけません。
お茶の先生にとって,お空から水が降ってきたり,お空に浮かんでいる水素とヘリウムの火の玉の具合などどうでもいいことなのです。
 なぜお天気の話が茶の湯において重要視されているのかというと,それはあなたとお茶の先生は同じ空を見ているという事実が大切だからです。
「あなたと私は見ているものが同じなのよ。」という共有作業が,茶の湯の本質なので,雨が降ろうが槍が降ろうがとりあえずお茶の先生とは一緒になって口を開けながらお空を見上げて過ごしてあげてください。
 あなたの隣にいるお茶の先生はとっても幸せな気分になっているはずです。

【飾物級】 とりあえずなんでも「はい!わかりました!」「やります!」と言おう

 茶の湯では「いいえ」と「いやです」という言葉が大変不吉とされています。
茶室に足を踏み入れた人間は,自我が統一され帰属意識が芽生え,茶室にいる個人の幸福や苦痛よりも,茶室存続に強いモチベーションを持ち,また茶室存続の障害になりそうな人間を排除する機運も高まります。
茶の湯には中断という概念がなく,基本的に茶室で茶湯が始まればそのまま進行していきます。
その進行を止める悪魔の言葉が「いいえ」であり,「いやです」という呪いの言葉です。
お茶の先生はそもそも自他の境界線が曖昧で,他人の個性や自我というものが嫌いなので,意思表明をした途端に仏のような顔をしたお茶の先生の顔が般若の如く歪んでしまいます。
 でも安心してください。実際にはいやでやりたくないことであっても,やるかやらないかは別にして,とりあえず「はい!やります!」と言っておけばやらずに済むこともあるので,深く考えずに「はい!」と言える練習をしておきましょう。
スゴいお茶の先生ともなれば,やると言ったことを全くやらなくても誰からも責められなくなるので,茶の道を志す者としては誰しもがこの境地を目指して精進していきたいですね。


 初級は以上となります。飾物までは初級で,茶通箱からは中級となります。
ここから茶の湯適性が必要となってくるので,ふるい落とされた人は残念ですが,教室の隅っこの方で突っ伏して寝ていてください。
また,茶箱点編を実践し続けた結果,自らがお茶になってしまう人も相当数いるので,ここからは茶の道を極める覚悟を決めてください。

【茶通箱級】 キャバ嬢になろう

 茶の湯が行われるのは往往にしてホモソ的価値観に支配された共同体です。
ホモソ的価値観を持つ共同体そのものが大きな茶室で,そこで行われる談笑自体が茶の湯であることは,初級をマスターしたあなたならもうお気づきのはずです。
 茶の道とは会話で相手を気持ちよくさせること。なのでキャバ嬢になっちゃいましょう。
相手が話したいことを話してきたら,大チャンス!
これは茶柱が勃つと呼ばれる現象であり,「さすがです!」「知らなかった…」「すごいですね!」「センスありますね!」「そうなんですね!」のどれかさえ言っておけば簡単に勃つものが勃ってくれるのでこの上なく楽な作業になります。

【唐物級】 隙を見せて説教させてあげよう

 茶の湯においては下の立場のものに強くものを言う行為は茶菓子のごとく甘いものであり,実害のない程度のもので気持ちよく説教されているのならそこまで(比較的に,相対的に見て,エキサイトされた時よりは)MPは削れませんし,むしろこの定期的に茶菓子を与えることによりガス抜き効果も狙えます。
 具体的には実害のないミスやおそそを盛大にやらかし,説教させる権利を錬成してあげましょう。
あなたのMPは削れますが,全体としては笑顔が保たれるので,プラスサムゲームなのです。
 茶の湯とは,一見和気藹々として社交的なコミュニケーションの類型ですが,所詮生贄の犠牲によって成り立つWin Loseの関係なのです。

 以上が中級です。いかがでしたか?
この記事を開いたあなたは,茶の湯に適性がないのにも関わらず,茶の湯の作法自体は実践することができる(悪運の強い)貧乏くじホルダーですね。
次からはいよいよ上級,免許皆伝レベル。そしてこれは闇の魔術に対する防衛術ともいえます。
茶の湯の奥義について,その真髄まで学んでいってください。

【台天目点級】 失礼を創造しよう

 お茶の先生ことマナー講師こと失礼クリエイターの創造した作法は,茶の湯においては非常に価値が高いものになります。
その作法の動作や文化に価値が宿っているのではありません。
その作法の動作や文化に価値が宿っていると信じる心に,価値が宿るのです。

茶の湯の作法自体には実際意味のない動作が多いですし,意味を見出すことに意味がありません。
郷に入れば郷に従え。ローマではローマ人のように振る舞え。茶室に入ったら失礼クリエイターになれ。
先輩失礼クリエイターのお茶の先生が吐いた言葉をバカ正直に実践する態度こそ,茶の湯で必要とされている魂のあり方です。
 そして,あなたも新たに失礼を創造し,それを用い自虐をしてお茶の先生の優位を示し,気持ちよくさせてあげたり,次の生贄を探したり,やることはたくさんありますが,次のラストインストラクションに繋がる作業なので,必ずこなしてください。

【盆天級】 差別をしよう

差別こそが茶の湯の行き着く先なのです。
皆で和気藹々と,凹凸な人間をふるいにかけ,要らない人たちがこぼれ落ちていくことで安心したり,幸福を感じることこそが,茶の湯の本質なのです。
残念なことに,茶の湯のようにクソくだらないプロトコルに弾かれてしまう人間なんて,茶の湯同様にクソくだらない人間でしかありません。
クソくだらない人間をクソくだらないプロトコルで弾くこと自体,非常にシステマティックで定型にとってはコストもかからずパフォーマンスは抜群な,大変コスパの良いシステムですし,定型の自己肯定感もついでに養える,対発達用の経験値トラップとしての機能も備えています。
合理的配慮をかなぐり捨てた情緒型定型発達の楽園の律法。それが茶の湯の正体です。
差別をすることにより,より快適な環境を作り出すことができます。
さあ,これであなたも茶の湯の免許皆伝です。
茶の湯に関しては,まだまだスゴい人がたくさんいるので,そういう方にはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしたいと思います。(茶の湯)

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