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entry number.9-11『初恋の人からの手紙』

オニオンサラダパン

《はーい、Nくん、ホントお久しぶり。こないだはお手紙ありがと。40年前のカレシからラブレターをもらうなんて、こんなロマンティックなことは初めてだよ。まさにHey!Say!JUMPだったね! わたしがこんなネタを言うとは思わなかったけど、

Nくんのあんな硬い文章は懐かしかったなぁ。当時の手書き同人誌を思い出したよ。5㎜の方眼紙を原稿用紙にして、びっしりと書いてたよね。執筆には"サクラのミリペン"がサイコーって息巻いてたっけ。一番細いペン先で書いた妙に整った文字が並んでいるのを見るのが、とっても気持ちよかった。内容については、ノーコメントだけどね。Nくん家のコピー機で100枚以上もコピーしたから、お父さんにおこられちゃったよね。あの同人誌はまだタカラモノだよ。

そういえば、イラストも上手だったよね。中学生のくせに出来上がりが必要以上に肉感的な“ラムちゃん”を描いてたのを今でもおぼえてる。上手なくせに、なんだか顔が似てないなーってその時は不思議だったんだけど、あとから聞いたら、わたしの顔に似せてたんだって? あまりにもショックで、そのあと3日3晩寝込んだわよ。ウソだけど。

お互いこんな歳になっちゃって、ゴールにはまだ早いんだけど、ちょっと後ろを振り返っちゃう気持ちはわかるな。ほんとに平成のあいだは一生懸命だったから。ちょっとわたしの過去をお披露目すると、愛知の大学へ行ってそのまま向こうで就職したのよ。そして、30直前に同僚と結婚したの。次の年に娘ができて退職よ。仕事が面白くなってきてたんだけど、きっぱりとね。未練はあったけど、後悔はしてないわ。その後なんやかやあって、娘と2人でこっちに戻ってきたの。で、知っての通り、実家のパン屋の手伝いを始めて、現在に至る、と。あ、そうだ、手紙でわたしは玉ねぎがニガテみたいなことを言ってたけど、今はもう大丈夫ですからね。ウチの人気商品、オニオンサラダパンの開発者はわたしですから。エッヘン!

というわたしも、年末にはおばあちゃんよ。永遠の16歳、なんてずっと言ってきたけど、そんな呪文も効果がなくなっちゃたかな。でも、わたしの中身はほんとに10代のままよ。成長できなかっただけなのかもしれないけどね。Nくんは、あの手紙を読むと、大人になれたのかな。それとも、久しぶりだからって大人のふりをしてたのかな。できれば、ハゲ散らかしたオッさんではないことを祈る。

あー、なんで書き文字になると、女の子言葉になるのかなあ。頭の中が肩こっちゃった。

いろいろ昔を思い出せて楽しかった。ほんとにお手紙ありがとね。

Nくんへ

千恵より愛を込めて

チャオ!》


スマホのナビに導かれてやっと着いた。
道路が太くなっていたり
再開発で区画が変わっていたりと
40年という長さを実感させられる。

そして目の前に、古めかしい店構えのパン店。
窓に貼られた「オニオンサラダパン」のPOPは
見慣れた懐かしい文字。

扉が開き、顔を出した店主が一声
「あら、Nくん! ぜーんぜん変わってないじゃん!」

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