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entry number.9-2『初恋の人からの手紙』

「こんにちは!元気ですか?私は、、、」

そんな挨拶で始まった手紙を受け取った。 差出人は明記されてないし、消印もにじんでどこから出された手紙なのかわからない、、、。

少し気味が悪かったけど、カミソリなど危ないものは入っていなかったので、そのまま読み進める事にした。


「あなたとは、高校で初めて一緒になったけど小学校からの男子のお友達の繋がりで何度かお話してましたよね。 私は八重歯が少し大きくて、それを見てあなたは『僕の好きな石野真子に似てるね』って言ってくれてたよね」

「そして、高2の夏にあなたから告白されて、、、私はとても嬉しくて、即答でOKっていっちゃったのよね」


え、、、?まさか、、、?え、、、?

「でも、あの時はごめんなさい。実はひとつ上の先輩がすごく気になっていて、あなたのことを考えようとしてたんだけど、どうしてもお友達以上の感情にはなれないって気付いたの。だから、たったの2週間で交際は終わりにしちゃったの、、、、本当にごめんね」


うんうん、たしかに一度振られたんだった、、、。でも、、、?


「でも、あなたは、それからもずっと私のことを思っててくれてたんだよね。3年生の夏にあなたから便箋で10枚もの長文レターを受け取って、それを読んでるうちに、あなたのことを本当に好きになり始めたのよ。でも、その手紙があまりにも長文すぎたので、、手紙の内容を会って説明して欲しいって、お願いしたのよね。そして、次の日曜日に、あの公園で会ったんだよね」


わぁぁぁぁ!懐かしいけど、なんか恥ずかしくなってきた。

「そして、もう一度、ちゃんとお付き合いしようって決めたの。でも、あなたはその時、卒業したら大阪の会社の入社試験を受けるって決めてたんだったよね」


そうそうそう。高三の夏休みに、担任の先生から学校に来いって電話をもらってさ、松下電器から7年ぶりに求人がきたから、まず、お前に聞いてみようと思った、て言われて、即答で受けます!って言ったんだった。
あの頃、彼女も出来ないし、親ともうまく行ってないし、就職は少し遠くの会社でって先生には希望をだしてたんだったわ。

「卒業までの半年間、私は本当に楽しかったのよ。私の為に作ってくれたって言うオリジナルソングとか聞かせてくれたり、学校の文化祭でほぼ全校生徒の前で弾き語りをしてたあなたを見てて、とっても幸せだったんだよ」

あったあったあったぁ!そんなこともあったわ。当時、ちょっとしたモテキだったんだよな、、、。後輩からも慕われてたので数人からお兄さんになって欲しいって言われてたんだわ。まさに!青春ど真ん中!だったなぁ、、、


「卒業式が終わって、あなたが大阪に出発する日が近づいて来て、もう寂しくてさみしくて、毎晩泣いてたの。あなたは、3年たったら大阪に呼ぶから結婚しようね、って、私の寂しさを癒してくれてたね。あの時の約束は、私の心の支えだったの。

そして、いよいよあなたが出発する日、、、私は私のお友達、そしてあなたのお友達とお見送りに新幹線の駅まで一緒に行ったよね。
新幹線のホームであなたはお友達から胴上げをしてもらったり、万歳三唱もしてもらってたけど、私はもう涙が止らなかった。新幹線に乗る前に、やさしくハグをしてくれて、耳元で『必ず迎えに行くからね』って言ってくれてたんだよね。そして、ドアが閉まった瞬間にあなたは堪え切れずに大粒の涙を流してたよね。」


そうだったよなぁ、、、。広島に着くまで、涙が止らなかったもんな
良くある青春の旅立ちってやつを地でやっちゃってたよな、、、。


「そして、あなたはその年のGWに初任給で帰ってきてくれたんだよね。あなたに会えて本当に嬉しかったんだよ。
でもね、、、あの時、、、実はすごく不安になったの、、、。たったのひと月でこんなにも寂しくて、会えないのがとてもとても辛くて、、、、私は本当に3年間待てるの?って。そして、就職した職場ですごいアプローチを受けてたの。あの時は言えなくてごめんね。
そして、6月にあなたにサヨナラを言ったんだったよね。」

そうそう、あの時はかなり落ち込んだよね、、、。実は、あの時、こっちにも気になる女の子が居ててさ、、、君に振られたあと、その子に告白したらさ、、、
(もう少し、早く告白してくれたら、、、)って、まさかの失恋2連荘くっちゃったんだよね。


「あれから、私は、その人と結ばれて、元気な二人の子どもにも恵まれたの。あなたとは、同窓会で一度だけ会ったけど、私の事を避けてたよね、、、。仕方がないって思ったけど、少し寂しかったんだ」


さすがに、普通に話すには十分な時間が経過してなかったもんな、、、。

え?でも?
なんで、今ごろ?こんな手紙が届くんだ?たしか、、、君は、、、


「今ね、この手紙を書いているのはね、、、病室のベットの上なんだ。実は、去年、40歳の誕生日を迎えて、旦那さんに勧められて人間ドックを受けたのね。で、、、そこで、乳がんが見つかったね。結構進んでて、今は抗がん剤治療で髪の毛が全部なくなっちゃったの。はっきりとは告知されていないけど、、、多分、もう、、、助からないと思うの。子どもはまだ成人していないけど、旦那さんと両親がしっかり見てくれてるし、そりゃぁ心残りはすごくあるし、なかなか受け入れることは出来なかったけど、、、今、私が生きている一日は、昨日、どうしても生きたいって思ってた人が叶わなかった一日かもしれないって思ってね。で、こうして、思い出す人、一人一人に手紙を書くことにしたの」

「病室で、色んなことを考えているとね、私はこれまでに出会った人で出来ているんじゃないかな?って、思うの。もちろん、産んで育ててくれた両親のお陰もあるし、一緒に時間を共にしてくれた友だちとか、出会ってくれた全部の人のお陰で、今の自分が出来ているって思えてきたのね。だから、あなたにもちゃんとお礼を言っておきたいって思って手紙を書いてるのね」

、、、、、、、、。


「本当は、もう一度会って、お礼を言いたかったけど、、、、。多分、もう無理みたい。
そして、あなたの住所もわからないので、この手紙があなたにとどく保証はないのだけれど、もし、受け取ったら、、、わがまま言うけど、私のことを少しでも思い出してくださいね。」


「人は2度死ぬって聞いたことがあるの、、、。一度目は、心臓がその働きを辞めた時。二度目は、その人の事をだれも思い出さなくなった時、、、。なんか、未練がましいよね。思い出して欲しくて、手紙を書いてるみたいだね。」

「でもね、これだけは本当だよ。」

「あなたのことは本当に好きでした。そして、本当に感謝してます。ありがとうね。」


読み終えた時、スマホが鳴った。

私はドキッとしたが、発信者は先日久しぶりに会った同級生の女の子だった。

「手紙読んだ?その子のお母さんから頼まれてね。あなたの住所がやっとわかったから、私がだしたのよ。でも、私からってすぐにわかったらつまらないじゃん。なので、差出人不明にして、切手の周りもろうそくを塗ってだしたのよ。がはは。」

『天国からの手紙かと思って、冷や汗かきながら読んだわ!
でも、本当にありがとうね。正直、忘れかけてたけど、大事な青春の思い出に再会できたわ。』

『そして、なにより、彼女の延命の手助けにもなったしね』
僕は電話を切ってすぐ窓の外の青空を仰いだ。

『ちゃんと覚えてるよ。俺が生きてる限り、お前のことは忘れないからね。こちらこそ、ありがとうね。』


彼女は、亭主関白が良いって言ってたのね。

だから、彼女のことを『お前』って呼んで欲しいって言われてて、自分のことも『俺』って言ってって言われてたわ。


ね!ちゃんと、覚えてるやろ。

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