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entry number.9-10『初恋の人からの手紙』

こんにちは。
あれから30年ちょっと経つけれど、元気ですか?


僕は、毎日忙しく仕事に励んでいます。
時折、大阪モノレールから見える万博記念公園の緑を眺めながら、ぼんやりと考え事をするのが日課になっています。


コロナで、電車に乗る人が一時期減ったからかな。
最近はまた増えてきて、少し不安になることもあります。

今日は緑を眺めながら、ふと君のことを思い出したのでメッセージしました。


君と同じクラスだった6年生の頃。

5年生の5月という中途半端な時期に転入してきた君は、6年になってもなかなか打ち解けずにいたよね。
特に女の子たちとの仲は最悪だった。


出来上がった輪に入るというのは難しい。
それくらい、男子にもわかるくらいの壁があった。


だからか、君はよく男子と遊ぶことが多かったよね。
話も合うし、一緒に過ごす時間は本当に楽しかった。
必然的に、同じ時間を共有することが多くなった。


けれど。
高学年で異性とすごく仲がいいというのは、時に厄介な出来事を引き起こす。


時折君が、人気のない階段に呼び出されているのを見かけた。

何をしているのかはわからなかったし、誰がいて、どんな話をしたのか。
全然見えてはいなかったのだけど。


戻ってきた君の顔が強張っているのはわかったよ。
もしかしたら怒っていたのかもしれない。
けれど、僕から何かを言うことは難しかった。


そう…
正直な話、僕には女子の難しい人間関係を、うまく乗りこなせるような胆力はなかった。
女の子って生き物の感情の機微は、本当に難しいのだ。


僕の奥さんを見ていても、そう思うよ。
女性の難しさは、男性とは違って独特だ。


…話がずれてしまったけれど。


僕は今でも、君のあの時の顔を忘れられないでいる。

泣きそうな目をしているのに、口はキュッと引き締まっていて、ああきっと怒っているのだろうな。
そう周りからも感じられるような空気があったね。


あれ以来、僕と君は疎遠になってしまった。


あの時、女子たちから言われたことがきっかけだったのかもしれない。
うっすら君の周りに漂う空気の壁のようなものが見えるようで、今までみたいにひょっこり入れるような隙間はどこにもなかった。

もしかしたら、その見えない壁を崩してでも、君に話しかける方法があったのかもしれないけれど。
あの時の僕には、ただ黙って傍観しているより他になかった。


あの時、君を呼び出した女子の一人がよく話しかけてきてくれて。
彼女の話を聞くことが増えたのも、大きかった。

だんだん、遠ざかっていく君を気にしながらも、僕は彼女の相手をすることが多くなっていた。
そんな微妙な雰囲気のまま、卒業式を迎える。


中学は別々だったから、卒業式が最後に話せるチャンスだった。
でも僕は、ここでも壁を乗り越えることはできなかった。


紅白の垂れ幕に描かれた卒業式の太字が、うっすら滲むように見える。
君はそこでも、一粒の涙も見せずにいたよね。
悲しかったのか、悲しくなかったのか。
それすらもわからないまま、僕たちの道は分かれた。


今の僕なら、もしかしたらその壁を壊して君に会いに行けたかもしれない。
いや、…行けないかな。


今でも僕は、あの時のヘタレのままなんだろう。

けれど、君が今可愛い男の子のお母さんになって、楽しく毎日を過ごしているんじゃないかなって。
そんなふうに想像すると、すごく幸せな気もちになるんだ。

僕も、自分の奥さんと娘がいて、毎日忙しく充実した日々を送っているよ。


コロナで世界が急変しても、人の幸せは変わらない。
どうか今でも、君が心から笑っていられますように。
これからも、そう願っています。

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