舞台文豪とアルケミスト 綴リ人ノ輪唱(カノン)

注:本記事は、Privatterに投稿した記事を、note用に加筆修正したものです。

舞台文豪とアルケミスト 第3弾 綴リ人ノ輪唱(カノン)のネタバレのある感想です。

第1弾配信の感想▼

1. 鑑賞情報

舞台「文豪とアルケミスト 綴リ人ノ輪唱(カノン)」
http://bunal-butai.com/

日時:2020年9月12日(日) 昼・夜

会場:品川プリンスホテル ステラボール
初めてステラボール行った……!(刀ミュ源氏双騎のイメージがある)

1階後方席。見やすかった。
2列おきに段差あり。椅子が左右一つおきに使えなくなっていて、真ん前は空席になるよう互い違いに空けられている。「前の人で見づらい」ことはなし。

先人に「ステラボールは寒い」(換気のため)と聞いていたので、秋冬用の長袖カーディガンと、薄手のブランケットを持参。席によっては一時的にグッと冷気が来る感じ。装備としてはこれで十分だっかと。

2. 背景知識

北原白秋「からたちの花」に潜書すると聞いて、読んでおいた
いい風景だな、見たことないのに懐かしいなと思って読んでいるうち、あの一行だけでグンと時間を巻き戻して、今に至るまでの時間をガッと積み上げてくる、すごい詩……。

他に言及のあったもの(覚えている限り):
・怪人二十面相(江戸川乱歩)
 潜書先になる。作中の雰囲気や、登場人物としての「怪人二十面相」に言及あり。
・五十音(北原白秋)
 「あめんぼあかいなあいうえお」。
・この道(北原白秋)
 「この道はいつか来た道」。
・羅生門(芥川龍之介)
 太宰がよく口走る。
・蜘蛛の糸(芥川龍之介)
 二回くらいセリフに入ってた。
・人間失格(太宰治)
 「人間失格を書いた人」として太宰が紹介される。
・月に吠える(萩原朔太郎)
 犀星さんが言及。
・供物(室生犀星)
 犀星さんが部分を暗唱する。

二魂(犀星と朔太郎)のこと調べてて、文劇3で話に出ていたやつはここに大体載っているみたい。
http://rittorsha.jp/column/2018/04/2.html
(立東舎コラム 2.室生犀星と萩原朔太郎(石井千湖『文豪たちの友情』発売記念特別連載))

3. あらすじ

文学作品を守るためにこの世に再び転生した文豪たち。 館長に導かれ、憧れの芥川龍之介と出会い、喜びに浸る太宰。 しかし、そんな平穏を壊すかのように、北原白秋の『からたちの花』が侵蝕され、 作者本人が自身の作品に“取り込まれる”という、未曾有の事態に。 北原とその作品を救うべく、太宰ら文豪たちは潜書をするが――

http://bunal-butai.com/

以下は観劇してのネタバレのあるあらすじ。

文劇3は文劇1の前の話だった。
軍国主義の時代を色濃く反映したアルケミスト館長は、全体主義の徹底のため、文学という個のパワーを疎み文豪ごと滅ぼそうとしていた。文豪を転生させ、潜書先で自ら(の負の感情)と戦わせて混乱させ弱体化させたところを滅ぼして、文学への想いも消し去ろうとしていたみたい。
太宰たち文豪7名は館長と戦うも全員滅ぼされてしまう。その後太宰(の魂?)は、向こうから溢れてくる光の中に入ってまた転生する。文劇1のテーマソングが流れ、文劇1の冒頭が始まる。

4. キャラの感想

太宰治:平野良
文劇1では「賑やかだな!?」と気圧されたけれど、おかげで慣れてて自然に見られた。弊館にはまだ太宰さんいないのだ……。

今回は、「芥川龍之介が好き」「芥川賞が欲しい」だけではなくて、「文学が好き」「文学がないと死ぬ」「文学をやめない」っていう軸があって、良かった。心が純粋に現れる(だからこそ情緒不安定っぽい)彼だからこそ、真っ直ぐに「文学をやめない」と言えるんだなと……。その真っ直ぐさというか、疑いのなさ故に、誤解することもあるのだけれど。

一人でも「一人三羽烏アタック!!」ってやってて無頼〜〜よかったな〜〜となった。


北原白秋:佐藤永典
白先生が……好きで……。白先生が出るから文劇3を見ようと思ったのもある。かなりある。

とても良かったです。良かった。「全部消し去ってみるがいい、その後に何が残るか……!!」って吠えるところとても良かった。泣いた。
得物が銃なのにわざわざ距離詰めて銃で殴りに行くのも良かったです。

学生時代の演技が昼と夜で少し変わってて、夜には着席する前に後席の生徒に「邪魔だ」みたいに言ってた。良かった(私は彼の不良エピソードをこの舞台で知った)。

ああ〜あとカテコのお辞儀が、両手を横に当てて腰を折る「お辞儀」で、飾らない感じなのが、意外だけど胸を打った。素朴な礼をしてくる北原白秋……。


萩原朔太郎:三津谷亮
みつやさんて刀剣乱舞大演練控えの間で大暴れしてた右上の骨喰で、あの悲伝の骨喰が……と衝撃を受けたみつやさん。
だからあんな無茶な日替わり(滑るギャグ)が入るんだなと……でも滑り方はちゃんと朔太郎だった。敗北BGM入るのもいいねえ。

ええと、すごく朔でした。文劇2は見られていないので初朔太郎。犀星と仲良くて幸せ。口論するところ知らないことばっかり出てくるのでヒエ〜すごいエピソードに事欠かない二人〜となってた。太宰から白秋先生を守ろうとする時にけっこう強気で来てちょっと意外だけど、北原一門〜って感じがあってよかった。
ぴょこぴょこしててかわいかったし、袖にはける時よくつまづいてた。

最後「館長に乗っ取られた朔」になる時の虚無な感じが良かったです。あと紐にかけられてずりずり後退するところも地味に好き。


室生犀星:椎名鯛造
刀ステ不動の人としてよく覚えている!

アクションシーンで側転してた! 身軽で他の銃メンツとの違いが明確。パワフル犀。

パンフにあった「犀星の行動は友達のため」っていうのがよく腑に落ちた。作中で椅子を振り回してたのも白秋先生のためだし。太宰を認める発言をしてくれるところも良かった。


中原中也:深澤大河
あんステの忍の人。小さい。とても良い。

声がゲーム中也にとても近くて、言い回しや仕草も中也だ〜〜と思います。酔っ払いシーンもリアルだなと思うし。文劇1よりもさらに中也だ。

「俺が死んでも誰も悲しまない」って死に向かってしまうところ、ああ本気でそう思ってるんだなと少し切なかった。持ち上げて斬りつけるの惨いよお……。


江戸川乱歩:和合真一
好きなんだ!!! 文劇の乱歩さんが!!!

お顔も立ち振る舞いも好きなんだ……(床を転がる)鞭捌きがこう、妖艶……好き……。

今回は推理や床に転がって動かない姿が見られて嬉しかったです。(好きな割に感想が出てこない)


芥川龍之介:久保田秀敏
文劇1を見た頃にはまだ弊館にいなかったかもしれない。淡白でつかみどころのない人だと思ってた。
今回は怒るシーンや彼の考えが聞ける部分もあるし、白秋先生への憧れや、二魂との仲良し感や色々見られて良かったです。殺陣も良かった。

史実の芥川龍之介のこともよく知らないんだけど、「私がいなくなっても構わない、取るに足らない存在なんだ」って本当に思っていたんだろうか。人間の成功って何なんだろうな。


館長:吉田メタル
いい人じゃなかった(衝撃)

「私は特殊で」とか「特別待遇にしよう」とかでなんかおかしい……? と思ってはいたが……いたが……⁉︎

全体主義を推す人にしてみれば、彼は彼の正しさに従っているわけなんだよなあ。私は嫌だが。

良き特務司書でありたいと思いました。

あと、彼の得物がザ日本刀なのは軍刀なんだろうなあと。

5. 場面の感想

オープニング
全員揃ったあと、侵食者に全員膝折ってオープニングが終わるんだよね。不穏さはラストの暗示だった。あああ。

北原一門、合流
太宰の早押しクイズ。芥川龍之介関連のこと、物知りだねえ……。
芥川さんと二魂がご近所トリオだったの初めて知った。

北原白秋がいい人だったという話
太宰、素直だなあと……。
白先生の不良時代の話も好き。

タバコが吸えない
刀ステ科白劇でもフェイスシールドのことを作中で言及していたかと思うけど、文劇はこう来るんだ! と。コツコツする芥川さんかわいかった。
夜公演の時なんでか芥川さんのフェイスシールドの顎の間に紙が挟まってて(取り忘れて出てきちゃった?)太宰が取ってあげてたのが自然で良かった。

乱歩に介抱される中也
自作が侵食されて補修室で休んでる乱歩の面倒を見に行った中也が、二日酔いのため逆に乱歩に介抱されていたらしく、弱ってるのに助けてあげる乱歩さん、良……好き……。

芥川の「文学は個人的なもの」
売れてる作家が言うと最初はスッと飲み込めないんだけど、本来個人的なものなんだっていうのはじわじわ腑に落ちてきた。『妖怪と小説家』でも「書きたいから書くんだ」って言ってた。

肉声
これは!! ああ劇場に行って良かったなって思った!!!
最初マイクトラブルかと思ってハラハラして、セリフがうまく耳に入らなくて。けど、2回目見て「やっぱ演出なんだな、よくやるな……」って思いながら、集中して聞き取ろうとできて。今思うと、「肉声を聞き取る」ってもう気軽にできることじゃないし(私は今日実に半年ぶりに生身の友人と会って話した)、劇場でそれを体験させてくれるのは、彼らと我々の相互性を高めるすごい試みだと思いました。劇場でご覧になる方、楽しんでね。
たった一冊の本に違う世界に連れて行ってもらって、知らないことを体験し、感情を動かし、怒ったり泣いたり笑ったりすることを、不気味だ、無意味だという人もいる。だけど、本がなかったら、創作物がなかったら、それを通じて別の世界を知ることができなかったら、私達は私達という檻の中で生きていくしかないじゃないか。
あと、どこで話していたか忘れてしまったけれど、芥川の「僕が死んでも、僕の作品を覚えて愛してくれる人がいるならば、その人の中で僕は生き続ける」というやつ、まさに数日前に同じことを思っていた。

芥川の「何十回何百回と地獄を見てきた」
芥川先生のあれって生前のこと? 転生してから潜書してのこと? それとも彼には何度も転生した記憶がある……?

北原の「滅ぼしてみろ」(うろ覚え)
北原先生消滅前の叫び。創作が滅びれば人の心はきっと早晩死ぬだろう。そう思う。
その後の館長との死闘も良かった。

文劇1のテーマソング
ずるいよ……!! 良かったよ……!!
正直あの死没垂幕がバタバタ落ちてきている間、どう風呂敷畳むんだ、夢落ちにでもする気なのかってソワソワしてたから、エピソード0だったとわかって安心と高揚で忙しかった。
あと乱歩さんが「次に転生したら、記憶がなくなっているかも」って言ってたの、さすが伏線〜〜ってなった。

綴リ人ノ輪唱
これはあの「生きろ」のことだったのかなあ。生きている人が紡ぐ創作を摂取して心を元気にして、また生きていくのだ。

「君は特別待遇だ」
あと、どのへんだったか忘れたけど、館長が太宰に「君の本は特別に侵蝕されないようにしてやってもいい」と言っていたのは、後で館長自身が言っていたように、太宰の作品は一部の(しかも、どうしようもないタイプの)人にしか受けないから、なんだろうな。北原白秋の作品は大衆に愛されるから、及ぼす影響範囲が大きいけれど、太宰治はそうではないし、仮に影響を及ぼしたとしても、館長からしたらろくでもない人間のことは優先順位が低いのかもしれない。芥川龍之介の作品を守るかどうかを「善処しよう」に留めたのは、彼の作品もまた、多くの人に愛されているからだろう。

本を侵食する負の感情
そしてもう一つ、本を侵蝕する負の感情とは、誰の負の感情なのか、がメディアミックスによって違うなあという話。
作者自身の負の感情、作品を読んだ人々に生まれる負の感情、そして「国」とか「時の権力者」による負の感情、色々あるみたい。そこは解釈に幅があっていいということなんだろうな。
でもねえ、負の感情が生まれているということは、そうではないプラスの感情だって生まれているはずだよね。

6. 全体の感想

大きな流れが創作を要らないと言って絞め殺すような世の中で、それでも創作をやるのだ、創作をやめないのだ、だって創作が我々を生かしているんだと、命をもって高らかに歌ってくれたなと……。

我々は生きることをやめず、心を動かすことをやめず、そうして創作することをやめない。創作を味わいまた生きることをやめない。

今だから生まれて、今だから見たい作品だなと思います。私もなんか書こう。

関係者の方々本当にありがとうございました。無事に最後の幕が下りたこと心から嬉しく思います。お疲れさまでした。


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